第427話 275列車、由布院、停車!定時!

それほど急な坂ではないので、4両編成の最後まで減圧されたら

また0ノッチに戻す。



かちり。

右手の下側、編成制動弁レバーを握り、ノッチを戻す。


しゅー・・・・。空気が抜ける音がする。

編成4両全体の空気が下がるのではなく、1両目から徐々に。


その頃には、坂を下って並木の右カーブに差し掛かる。



かん、かん、かん・・・・。踏み切り警報機が、金属の鐘を鳴らしている音が聞こえる。



もうすぐ、由布院駅だ。


「由布院、停車!」駅名表示を確認、仕業票を右手で指差す。停車である。

「場内、停車!1番!」信号を左手で確認。




ぢゃーん・・・・・赤信号警報ベルが鳴る。


きんこん・きんこん・・・ATSチャイムの音。


運転席から伸び上がって、左・上パネルにある赤ボタンを押す。

「確認、よし!」



機関士・理沙は

ひとつひとつ、動作を確実に行っている。

創造性が豊かな人でも、そこは着実に行わないとならない。



「速度、20!」十分に減速されている。


DE10 1205は重いので、構内のレールを踏みしめ、踏みしめ。



まだ、後ろから引かれている感じで減速中・・・。




「ホーム、注意!」機関室からでも、1番線ホームは左側なのでよく見える。


タウン・シャトルは座席がゆったりしているので、人気がある。

右にカーブしている由布院駅。1番線ホームは駅舎に沿っている。

ホームに沿った倉庫に seven stars in kyusyuと、7、と言うモニュメントが見える。



理沙は、停止位置、その倉庫の少し先にある

ホームの端に立っている▽を確認。


速度はゆっくりゆっくり・・・下がっていて。


「このまま停まれるね」と、機関士・理沙は思う。



一応、非常時に備えて編成制動弁に手を掛けている。


すこし下り坂の由布院駅。

停止寸前に、再び編成制動弁を1ノッチ。



しゅー・・・・。


後ろから引かれつつ・・・・今度は、機関車単弁をも1ノッチ。


しゅー・・・・。



機関車単弁、0ノッチ。




ぴたり。


「停止位置、よし!」



上手く停まった。



時計を確認。


「由布院、停車!・・・5秒、遅延」






同じ時を、4両目最後尾、スハフ12の左側車掌室で


車掌・洋子は


車掌室窓を開け、帽子の顎紐を顎に掛けて左手で帽子を抑えつつ

すこし、窓から顔を出して


「ホーム、注意!」



右手は、ドア・スイッチに手を掛けている。



編成は、静かに制動を続けている。

洋子の足もとで、制輪子ブレーキが車輪の踏面を抑えている。


軋み音がする。



左カーブなので、フランジもレールを押す。


その音は、あまり好きではない(^^:



ゆっくりゆっくり、停止位置が近づいてくる。


ホームに描かれている、白い停止位置。


ホーム屋根から下がっている停止位置看板▽。



すー・・・・と、近づく。



ぴたり。停止。




「停止位置、よし!」


白い手袋の左手で、停止位置確認。



腕時計をちら、と見る。ほぼ定時だ。




洋子は、右手で、ドア・スイッチを押し上げる。


四角い箱の上下に、相互スイッチ・ボタンが出ていて

その下側を、押す。




ぷしゅー・・・・・。


折り戸タイプのドア・エンジン・シリンダに空気が入る音。



ばたり。



ドアが開く。





駅員のアナウンスが聞こえる。



ーー1番線に到着の列車は、大分ゆき普通列車です。

大分まで各駅に停車致しますーー




洋子も、車掌室壁面にあるマイクのトーク・ボタンを押し


ーーご乗車ありがとうございます。由布院に到着致しました。

降り口は左側、ホーム側の全てのドアから降りられます。

お忘れ物、落し物ございませんよう、いま一度身の回り、お確かめくださいーーー



トーク・ボタンを離す。



車掌室壁面に磁石で止めてある、仕業票を確認。


白い手袋の右手で、指差し。


「由布院、停車。定時」



+5秒は、記録上は定時である。



ずっと、+5秒で走っている。


「さすがね、理沙さん」と、洋子は思う。



その間はオン・ダイヤである。

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