第329話 ゆりゆり

愛紗と菜由は、2階の露天風呂に行こうと思ったけど

外をサンダルで歩くと、寒いし

ペタペタ煩いかな、と思って・・・。

なにしろ、22時近い。


ホテルの中も寝静まった感。


その、深夜のホテルの雰囲気と言うのも、どことなく寝台特急のようで

愛紗は好きだった。


菜由は「ふたり部屋って、いいね」


愛紗は「どうして?」


菜由は「うん・・・こういう時も気兼ねないでしょ」


多人数は楽しいけど、誰か寝てたりすると・・・気を使うし

さりとてひとりもちょっと、淋しい。




愛紗は「私達って、不思議よね、なんとなく。」



回廊を歩き、照明が少し暗くされた絨毯の上を歩いて。


エレベータの▽ボタンを押した。



菜由は「そう?」



愛紗「だって、ただ九州出身だってだけでしょう?」


菜由「そっか」




東山急行へ入り、本社研修で一緒になって。

同じ営業所に、偶々配属されたと言うだけ。

同郷人、それだけ。


エレベータが来て。


すぅ、と・・・・ドアが開く。








同じ頃。405のパティはひとり。

TVをつけて。のーんびりしていた。


「あたしもお風呂いってから寝ようかな」

なーんて。


明日は休みである。



なにせ、鉄道員。


不定休だから、ボーイフレンドを作る暇もない。


それ以前に「野球したいなー」(^^)。



フルスイング!


ホームラーン!


なーんて、思う・・・・。18歳のパティ。



「愛紗は、真面目だなぁ」と、正直そう思う。



パティは、別にずーっとCAでもいいと思ってるし


こういう平日休みのお仕事も、いいところもあるし。

楽しく生きていければそれでいいと思う。



「なんであんなに真面目に、ドライバーの仕事を考えるんだろう?・・・

あ、やっぱり事故が怖いのかな」



なーるほど。よく解った(^^)。



「お風呂行ってこよ。」



タオル持って。


カギはきっちり持って(笑)。







406の、ともちゃん、さかまゆちゃん。


ともちゃんは、持ってきたパジャマに着替えて。


かわいらしい、ももいろの、ふんわりした。


さかまゆちゃんは「かわいい」と、にこにこ。



ともちゃんは「えへー。ちょっとこどもっぽいけどー。好きなの。

ふわふわして」



さかまゆちゃんは「ともちゃんもふわふわしてるもの、お似合い」


と、お部屋のベッド・サイドにあるBGMのスイッチを入れてみた。



静かなストリングス。



レーモン・ルフェーブルの「ジェット・ストリーム」だった。



ともちゃんは「ラジオでよく聞いたっけ、中学の頃」



さかまゆちゃんは「そうそう。機長さんがしぶーい声で。


「私の、レコードアルバムの時間がやってまいりました・・・・。

今、モルディブは午前7時・・・・


とか、ね(^^)」



ともちゃんは「そうそう!あの詩、ノートに書いたっけ。」



さかまゆちゃんは「勉強するつもりで起きてたけど、ラジオ聞いて・・・

楽しんでただけ」



ともちゃんは「うふふ(^^)」



さかまゆちゃんは「スチュワーデスって、憧れたっけ。」



ともちゃん「今、列車のCAになったのも、それで?」



さかまゆちゃん「そうかも。旅のお仕事ってステキね。」




ともちゃんは、すこしなにかを空想して・・・


「うん。寝台列車の食堂車クルー、とか。やってみたいね。」




さかまゆちゃんは「うん。あれは・・・なんだっけ。

日本食堂に入らないとダメじゃない?」



ともちゃん「そうなんだ。仕事似てるけど。じゃ、夜行列車の

ワゴンさん」



さかまゆちゃんは「あれは・・・どこだっけ。門司で交替じゃなかったかな?」




ともちゃんは「そっかー。」



さかまゆちゃん「女の子は、22時ー5時は勤務できないもの。どの仕事でも」



ともちゃん「ふーん、まあ、楽でいっか」(^^)。




さかまゆちゃん「そう。22時過ぎたから、寝よ」



ともちゃん「そだね」(^^)。







408の、友里絵と由香。



「はー、なんか・・・旅も終わりが近づくと。哀愁だなぁ」と、由香。



「バイバイ、哀愁ディ!」と、踊る友里絵。




由香は「ハハハ。でも違うぞそれ」



友里絵「いーの!」



由香「でもさーぁ、愛紗がドライバー辞めるとなると。中型路線は人、足りなくなるでしょ?」



友里絵「いきなり現実になるなぁ、そうだけど・・・でも、有馬さんも

もともと、あんまりアテにしてなかったみたいよ。

だって、ダイヤ見ると男子だけで回ってたもの」



由香「そっか。さすがだなぁ。のんびりトドちゃん」(^^)。



友里絵「で?あんたがドライバーになる?」



由香「うん。誕生日がもうすぐだから、そしたら免許取って・・・

だって、ガイドって寝る時間無いけど、ドライバーの方がまだマシ」



友里絵「契約になればいいみたいね。月給じゃなくなるけど、楽は楽。」



由香「ドライバーでもそうだったね。だから、定年になった人が・・・・

指令だった坂江さんとかさ。楽しそうにやってるもんねぇ。昼間だけとか。

年金貰いながら。」


友里絵「坂江さんは、体悪いんだけど、それでもやってるみたいね。

なんか・・・・薬飲みながら走ってるって」



由香は「その位、足りないんだドライバー・・・。じゃ、やっぱ、あたし、するかな」



友里絵「する?手仕事?」



由香「バーか・・・ははは。ねえ、手仕事よっかさ。

2人きりだし。・・・あんた、百合エでしょ?」



友里絵「その百合じゃないって」



由香「ハハハ」



友里絵「最初ね、あたしが生まれた時は

百合絵にしようって、考えたらしいの。

でも、ユリだといかにも・・・だし。

漢数字の名前って良くないんだって。お寺の和尚さんが」



由香「ふーん・・・和尚さんがつけたの?」



友里絵「そうじゃないらしいけどね。聞いたんだって。いちおー。

あ、そうそう、タマちゃんは和尚さんがつけたんでしょ、あの名前。」


由香「そうなの?」



友里絵「うん、なんか、ひいじいちゃんが和尚さんで。

青森にお寺あるって。・・・あ、理沙ちゃん知ってるかも。青森だし」



由香「どっかでつながってるねー。そのうち、タマちゃん戻ってくるんじゃないかなぁ

大岡山に」



友里絵「だといいね。楽しくなるね」



由香「ホント。有馬さんも喜ぶよ、きっと」

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