第304話 ゆふいんのバス

どうにかしたい、けど・・・どうしようもない。


お兄ちゃんが好きだって。


何も出来ない。




恋人にしたい。そういう気持とは違うんだけど。


でも、他の女の子に渡したくない。






「わがまま、なのかな・・・・。」と、まゆまゆちゃんは思う。






自分のお部屋の、勉強机の、高校の頃そのままになっている


椅子に座って、ぼんやりと・・・物思う。






なぜか、落涙していた。




それに驚いて。「あれ?」






でも、あとから、あとから・・・・泣けてくる。






どうしようもないから・・・。























同じ頃・・・・。国鉄・熊本・職員男子寮。




お兄ちゃんは、部屋で横になっていた。


乗務員は、大体上の階で


静かなところ。




ひとり部屋である。




8畳くらいと結構広い。ワンルーム・マンションみたいな感じで


流しと電気のコンロがあったりする。


けど、お風呂とトイレは別。




そういう面白い作りだった。


良く見ると、流しの蛇口とシンクは


どこか、寝台車の部品のようでもあった。






壁際にベッドを置いていて。そこに、ごろり。




時間が不規則なので、いつの時間も静かにしていた。






だから、ステレオで音楽を聴くのが好きな人とか


TVが好きな人は、寮は合わないので




乗務員ばかりが残った。そういうものだ。








横になりながら、考える・・・。










・・・・特急組・予備。




本務に、いつかなったとすると・・・。






「旅客に回ってくれる?」なーんて言われる事もあるんだろうな・・・。








なし崩しに、普通電車に乗ったり。






なんとなく、それも・・・・。


ネクタイ締めて、乗客の視線を気にしながら電車乗ったり


駅で、ホームから落ちる客に怯えながらブレーキハンドル握るのも


嫌だった。








「ま、その時考えりゃいいか」と、気楽なお兄ちゃん。








そんなワケで、寮暮らしの方がいいおにいちゃんだから・・・。


わざわざ金掛けて、結婚なんてものするつもりもなかった。






それ以前に、女の子を好きになる暇も無かったし


出会う時間もない。






あっちの不満は、tiktokJK見てしこしこ・・・・


なーんてコトはしない(笑)。






そんな暇もなかったりする。






それ以前に、まゆまゆがかわいいから


可愛がることに気持が行ってると


そっちの方面は、忘れている。




「ま、ふつーだったら、かわいい子は恋人だからさ」




恋人だって、そっちの方面はあるだろうから


共に、そっちへ行く。




それが幸せなんだろうけどね。






そう、お兄ちゃんは思いながら・・・・






すこしまどろんだ。






「次の明公休で、帰るかな」




貨物は夜勤が多いので、明番ー公休で


3日くらい休める事もある。




それも、貨物機関士の楽しみだったり。





















愛紗は、由布院駅前の営業所で


ダイヤを見ていたり、バスを見ていたりしていると・・・。




窓口のお姉さんが「何か御用ですか?」




薄いブルーのブラウスにスカーフ。


チェックのキュロット。




友里絵たち、バスガイドの制服だから


事務員ではなく、ガイドさんが合間にやってるんだな、と愛紗は思った。






「あ、いえ・・・ちょっと、バスが好きなので」と、愛紗が微笑むと




お姉さんは「運転ですか?」と、にっこり。




愛紗は、ええ、まあ・・・と、適当に。




お姉さんは「バス運転士募集」のチラシが張ってある壁を指して




その手のさし方も、バスガイドっぽい(^^)。






「いつも、募集が出ていますよ。この辺りは長閑だから、いいかもしれないですね」


と、にこにこ。






はい、と曖昧に頷いて。




愛紗は思う。






でも・・・・有名観光地の由布院だと。


休日は都会から人が来るから、あんまり大岡山と変わらないかなぁ、と思ったりして。






「やっぱり、庄内の町内バスくらいがいいかな」と思う。








外に出てみた。




ふるーい、中型バスがほとんど。


大岡山だったら廃車、になるような車が使われている。


大体そうで、都会で使われていた車が古くなると


地方へ回される。






大岡山でもそうで、横浜営業所で使われていた


7952号を、深町が乗っていたのはよく覚えている。




有馬が、特別深町を気に掛けていたのだろう。




その7952は、今、園美が乗っている。






「実際乗るとなると・・・・」なーんとなく、怖気づく愛紗だったり。






駅前に戻る事にした。








駅の待合室ギャラリーでは、菜由が絵を見ていて


「あ、愛紗、どう?」




と、にっこり。






愛紗は「うん。路線は、休日は怖いかもね。都会から車が来るし。」






菜由は「そっか・・・。」と、手放しで喜べないな、と言う雰囲気を察した。


それで


「コミュニティは?あれなら土日休みでしょ」






愛紗「わたしもそれ考えたの。でも、コミュニティだけ乗務したいんだったら


市バスを受けた方がいいもの」






菜由は「うーん・・・じゃさ、とりあえず転勤して。ダメだったら辞めれば」


と、あっけらかん。






愛紗は「そうね。それもいいかな」




菜由は「その間に国鉄受けて、鉄道に行ってもいいし」






愛紗は、親友の菜由をありがたく思った。




ただ、近くに居たってだけなのに。こんなに親身に考えてくれて。






そのキッカケになった東山急行を離れるのは、ちょっと辛いけど。








菜由は「それか・・・しばらくガイドに戻るか」






愛紗は「ああ、そのテもあるね」



















友里絵は、ラブラちゃんに「ばいばーい」して。






ラブラちゃんも「ワンワン」。






パティは「友里絵、いぬ好きね」






友里絵「うん。犬のナースだもん。トリマーだし」




パティは「すごいですー。先生ねー。」






友里絵「センセにはまだ、なれませーん」






パティは笑顔で「いつなれるの?」






友里絵「さーぁ。ワカリマセーン」と、両手を上げて。






パティ「グリコですか」








構内踏み切りを渡って・・・駅舎の方へ。








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