第297話 ゆふDX 博多ゆき

グリーン車の車掌室窓から、顔を出して帽子を押さえているのは

日野車掌さんだった。


来るとき、1列車「富士」の専務車掌で。

東京駅で、ちょっと同郷人同士、愛紗がお話をした。


その間の記憶を、愛紗は思い出す


・・・長い旅だったな・・・・。



「でも、何しに来たんだろ?」(^^)。


日野車掌は、愛紗よりもパティに気づき「やあ」


パティはにっこり「おつかれさまデス」と。ご挨拶。


日野は、グリーン車ドアから降りてきて「ああ、みんなおそろいで」



さかまゆちゃん、ともちゃんもごあいさつ「おつかれさまです」



愛紗には「旅行、おつかれさま」と。日焼けの顔でにっこり。


愛紗も会釈。


友里絵は「夜行だけじゃないのー?」


日野はにこにこ「うん、合間にね。こういうのもあるの」


夜行だけだと、時間が半端(実働6時間×20だから)。

合間乗務と言うのものもあったりする。



「でもまた、なんでみんな・・・と一緒に」と、日野さん。



友里絵は「うん、お友達になったんだー」



日野はにこにこ「いいね、お友達」と・・・。



さ、列車に乗って?と。




「じゃ、いこか」と菜由。



「イコカは関西でしょ」と、パティ。



菜由は「おー、詳しい」


パティはにっこり「いちおー、乗務員デス」と。


菜由と並ぶと、頭ひとつ大きい。



日野は「パティ、頭気をつけてね。この列車天井低いから」



パティは「そんなにでっかくないでーす」(^^)。


まあ、180cmは無い(^^)。



ハハハ、とみんな笑って2号車へ。


友里絵は「ね、ね、先頭は?」


ともちゃんは「パノラマは指定席ですね」


さかまゆちゃん「でも、前半分だけだから。後ろの席は自由なの。

見るだけは見れます」と。



友里絵は「じゃ、そこいこ?」



とっとこ、とっとこ・・・・。



由香「おーい・・・。首輪つけたほうがいいなぁ、ありゃ」



みんな、笑いながら付いて行く。



1号車のデッキから、入ると

藍染の暖簾が掛かっていて、そこがパノラマ席だと解る前の何席か。


でも、その後ろから前は見れたりする。



友里絵は「運転手さんみたい」と、にこにこ。



床下で、ターボ・ディーゼル・インタークーラエンジンが

ごー・・・・と。響いている。


床に点検用のハッチが空いていて

それを見ると、愛紗はバスの車両を思い出したりして。



先送りにしてきた結論の事を思い、ちょっとブルー。



菜由に「仕事、どうしよっか」と、小声で。


菜由は「うん、取り合えず・・・由布院の営業所に行ってみて。

よさそうだったら転勤すれば?それから国鉄に転職してもいいし。」


と、菜由は親友らしく、助け舟を出した。


こういう時は、自分じゃ決められないんだから。

誰かがとりあえず決めれば、愛紗は楽。




愛紗は「そだね、ありがと」と。言って、気楽になった。



パティは席を見回して「7人・・・空いてないね」


1号車はやっぱり人気で。



友里絵は「じゃ、後ろいこ?」


由香は「そうそう。



2号車はガラガラ。木曜の夕方なので、博多へ帰る人は、大分からだと

電車特急「ソニック」で帰った方が早い。

小倉まで1時間掛からない。


ディーゼルで、遠回りの「ゆふDX」で行く人は

久大線沿線に降りる人、くらい。



なので。



2号車に、来た7人。



フロアは少し低くなっていて、シートは茶色いモケットが張ってある

ふかふかのシート。「ふたつ占領するぞー」と、友里絵は

シートを回した。左右。



真ん中辺り。


右側、窓側が菜由、愛紗。

通路側に友里絵、由香。


左側、窓側にさかまゆちゃん、ともちゃん。

通路側にパティ。


友里絵は「パティはおっきいからー。ふたり分?」


パティは「おすもうさんじゃないですよー」と。


ハハハ、と友里絵。



ともちゃんは「お相撲さん、おおきいねー」


由香は「乗ったことある?」



ともちゃん「ハイ。新幹線から降りて。」



友里絵は「新幹線は乗るの?」



さかまゆちゃん「私達はないですね。博多区の人じゃないかなぁ、それか

鹿児島区」


ともちゃん「2時間くらいですから。」


友里絵「なーるほど・・・・。ね、晩ご飯なに?」



愛紗は「今日は・・・コースだったかな。豪華よー。和食と洋食、フレンチ、中華。

いろいろコース」



パティ「ハイ。時々。いただきまーす」



菜由は「パティのお家はどこなの?」



パティはにっこり「由布院」



愛紗は「大分車掌区なのに?」


パティ「ハイ。わたしはCAですから、早い時間の乗務と言っても

始発に乗る事、ないです。それで電車で。」



友里絵「いーなあ。」


菜由は「その時ってさ、大分まで行くのも業務なの?」



パティ「ハイ」と、にっこり。



友里絵「いーなぁ。あたしも転職しよ。」


由香「入れてくれたらな」


ハハハ、と友里絵は笑う「ムリムリ」



菜由は「さかまゆちゃんたちも、これ、業務なの?」


さかまゆちゃん、かぶりを振って「イエイエ。これは業務外です」


由香は「でもタダでしょ?」


ともちゃん「それは、ハイ。ちゃっかり」と、にこにこ。



友里絵「あたしたちも、バスはタダだもんねえ」



パティは「ホントは、普通列車で行くんですけど」と。


友里絵は「あー、パティ悪い子」



パティ「エヘへ」と、赤い舌ペロリ。ウィンク。にっこり。


「でも、夕方の普通列車は混んでますから、かえってお邪魔かな」


さかまゆチャン「あたしたちもそうなんですけど・・まあ、空いてる時はいいか、と」




そのうちに、特急「ゆふDX」は、発車時刻が来る。


にこやかな、女の人のアナウンスが聞こえる。


♪ちゃいむ♪

ーーーー久大本線、特急、ゆふ、デラックス号、博多ゆきは

6番のりばですーーー。



♪ちゃいむ♪


愛紗は「これ聞くと、帰って来たーって思う」

菜由「ほんと」



パティは「愛紗って、日野さん、知り合いなの?」



愛紗は「ハイ、姪です」



パティ「苗字も日野ですか?」


愛紗は「ひなせ、って言うの。日、生まれるって書く」



ともちゃん「かわいいお名前」


愛紗は、ちょっとはずかしい。「宝塚みたいだって、まゆまゆちゃんが」



さかまゆ「まゆまゆらしいな。でも、そんな感じ」



友里絵は「よし!パティと愛紗は映画に出よう!」



由香「あんたも出な」


菜由「3枚目な」



ハハハ、と和やかに笑う。



特急「ゆふDX」は、静かに走り出す・・・。


名残惜しそうに、ゆっくり、ゆっくり。







走り出した急行「球磨川4号」の、2号車業務室で・・・・まゆまゆちゃんは思う。



友里絵さんが、いいと、お兄ちゃん。



「そっか。お兄ちゃんは、元気なひとがいいんだね」



わたしも元気になろう!



・・・なーんて、思って。(^^)。




スポーツ、やろうかなぁ。なんて思う。




廊下から声。「まゆまゆー。開けるよ」

裕子である。




まゆまゆは「あ、ハイ」



引き戸を開けて、中に入って閉めた。「出てこない方がいいね。また、なんか

聞かれると困るし」



裕子である。



ディーゼル急行「球磨川4号」は、古い12シリンダエンジンなので

排気が多い。


ごーぉ・・・と、連続音。

排気管が近い業務室は、結構大きな音が聞こえて。



まゆまゆちゃんは「はい。すみません、なんか」


裕子は「なーに、いいって事よ。そのうち、まゆまゆもさ、先輩になって。

後輩に、同じことするさ」



まゆまゆは「そんな日、くるかなぁ」



裕子「くるさ。そのうち。来なければ寿退社!・・・の方がいいな。ハハ。

と、明るく笑う。

高校時代はテニスをしていた、と言う裕子。

今でも時々、コートに出ているらしい。

それらしい、さっぱりとした人。



まゆまゆも、笑顔を返す。



「どんな人なんだろう、わたしのお婿さんって」


と、空想する。

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