第284話 やきそばパン、コロッケぱん・・

歩きながら友里絵は「ねね、ともちゃんもバレー部?」


ともちゃんは、かぶりを振って、にっこり。

「ブラスバンドです。クラリネット・パートでした」と。



由香は「へー。いいねぇ。楽器できるのって、今でも吹いてる?」



ともちゃんは、にこにこ「いいえ、今は、時間が無くて。でも、オモチャのは

吹いてます」と、バッグからプラスチックの笛、みたいだけど

竹のリードがついていて、キーの無いサックスのようなものを取り出して。


♪~ ハイケンスのセレナーデ だった。



菜由は「来るとき聞いたね。寝台車で」


友里絵は「上手いねー。ホンショクだ」


由香は「さすが。ハイソだなー」



ともちゃんは「いえいえ・・・」と、ちょっと恥ずかしそう。

「時々、ちいさな子に吹いてあげたりします」



やさしいね、と、友里絵。にこにこ。




さかまゆちゃんは「夜行で来られたのですね」と。



愛紗は「はい。富士号で。」



さかまゆちゃん「いいですねー。乗ってみたいです」



菜由「案外、本職だと乗らないね」


さかまゆちゃん、そうそう、と、にこにこ。

「なかなか、まとまったお休みはとれませんし」



改札から、構内踏み切りを渡って。


島式のホームに、スロープで上がり。


ベンチに腰掛けて。


サイダーと、セブンティーンアイスの自動販売機がある。



ひろーい構内の側線には、赤い、単行ディーゼルカーが停まっていて。

エンジンを掛けたまま、レールの上に車止めをしていた。


三角の金属板に、ながーい棒が付いていて。

それを、レールと車輪の間に挟んでいた。


エンジンが、がらがらがら・・・と、回っている。


赤いボディに白い文字で キハ220、と読める。



ともちゃんは「あの車両が、特急の後の大分ゆきです」



と、ご案内。



友里絵は「特急は、どこから来るの?」



由香「熊本じゃない?」



さかまゆちゃんは「ハイ。こっちですね」と・・駅舎から見て右手の方を手で示した。



空は、すこしづつ晴れて来ていて。




「SLは、どこいったの?」と、友里絵。


ともちゃんは「ハイ。もう回送で、出発しました」



由香「早いなー」



愛紗は「単線だと、時間がないのかな」



さかまゆちゃんは「営業すると、編成を逆にしないとならないのですが

回送だとそのまま、機関車だけ付け替えて行けばいいので、早いです。」




友里絵は「編成?逆?」



愛紗は「ほら、展望車があるから。後ろにしないと景色がよく見えないし」



由香「なーるほど。気を使ってくれてるんだ」



ともちゃんは「ハイ。それと、煙が掛かると展望車のガラスが汚れます。

お掃除が大変ですし」



由香「なーるほど。あたしらもバスの掃除って、ヤダモンなぁ」


友里絵「ヤダモーン」


菜由「懐かしいなぁ」


愛紗「5分だっけ」



友里絵「クレクレクレ♪~」



由香「CRCかいな」


友里絵「♪くーれくれたこらー♪」



ともちゃん「あのタコさん、かわいいですね」



愛紗は、そのTVをどこで見たか、思い出していた。


高いところにTVが吊ってあって。


冷房の効いた食堂だった。夏だと思うけど・・・。



・・・そうだ。あれは・・・上野の乗務員宿泊所だ。



・・・でも、誰に連れて行って貰ったのか、どこへ行ったのか?

まるで記憶がない。



宮崎に住んでいて、上野の乗務員宿泊所にいるだけでも

大旅行だ。






「あ、キタきた!」と、友里絵が指差した。


赤いディーゼル特急が、煙を吐いて。



かたかたん、かたかたん・・・・・。






EF81-137の運転台で、お兄ちゃんは

快適に列車を走らせていた。



昼間、あまり見られないブルー・トレイン。


田んぼの中に三脚を構えて、写真を撮る人。


駅のホームでビデオを撮る人。


陸橋の上から、大型のカメラをかざす人。



「ちょっと、スター並みだな」





すこし、にんまり。


ゆるーいカーブを、ゆっくり走る。



信号現示。



進行!速度75。




急がなくてもいいのだ。




機関車は好調だ。



開け放たれた窓から、いい風が入ってくる。



カーブの向こうに海が見えた。




波頭が輝いて、きらきら・・・。



乗務していて、楽しい瞬間である。



間違いがあってはならない、鉄道の運転である。


信号見落とし。それだけで大事故が起こる可能性もあるからだ。








人吉のまゆまゆは、お昼。


あの、みんなで行った、駅近くの定食のお店で

ひとりご飯。



お店のおばちゃんは「みんな帰っちゃって、淋しいね」と、にこにこ。



まゆまゆは、気をつかわせちゃいけないな、と思って「いえ・・旅って、そうですから」



おばちゃんは、うんうん、と頷いて「そうね。いつかまた、帰ってくるよ」



・・・・帰ってくる。




・・・・そう。友里絵さんは帰ってくるって言ってたから。


・・・その日を待とう、ね。



少しだけ、お兄ちゃんの事を忘れられた一瞬だった。




ひじきの煮物を食べながら。


お箸の先で、つまんで。


もくもく。



ご飯。



もくもく。



・・・・友里絵さんだったら?お兄ちゃんのお嫁さん。



・・・・それだったら、嫌かな・・・?



と、問いかけてみるまゆまゆ(^^)。




・・・・ちょっと、わからないな・・・。




フクザツなオトメちゃんだった(^^)。



木曜日。

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