第234話 第二閉塞、進行! 速度、110!

特急「有明」の回送列車の最後尾。乗務員室で。


さっきのCAさんは、ホームを指差呼称。


ホーム、よし!


白い手袋が、より、凛々しい。

胸のネームプレートには

熊本車掌区

   荻


とある。


真由美ちゃんは、やっぱり涙ぐんでいて。

「恵さん・・・。」と。


荻恵は「なんだ、どうした?ガンバガンバ」と。

真由美の肩を寄せて。背中を、ぽんぽん、と。叩く。


真由美ちゃんは、恵にくっついて、泣いた。



恵は「お別れ、淋しいよね」と、にこにこ。

真由美ちゃんの頭をなでなで。



かたたん、かたたん・・・・。

回送列車とはいえ、単線なので

対向列車のダイアがある。

けっこうな速度だ。



運転士は、進行3ノッチで、ゆっくり。

とは言っても、制限75である。


標識確認。



カーブ、制限、75!と、左手で指差呼称。


制御振り子、と呼ばれるこの車両は

GPSデータと路線図マップによって、自動的に振り子制御が行われている。

完全自動運転も可能である筈であるが、そこまでの機能は使われていない。







友里絵たちは、新水前寺駅に取り残されたような、カンジ(^^)。



「なーんか、終わっちゃった感あるね」と、由香。


菜由は「水曜だもんね。結構、長い旅だけど・・・・真由美ちゃんと

一緒の間、楽しかったから。特別」

と、ホームの彼方、立野方向を見ながら。


愛紗は「そうね。

人吉に居たのって、24時間くらいでしょう?」

ホームの時刻表を見て・・・。


「あそ6号かな」と。

特急なので、立野までは早い。

ただ、高森線直通ではないから、立野で高森線ローカルが待っていれば

すぐに乗り継げるだろうけれど・・・。

そうでなければ、直通列車に乗った方がいいかもしれない。



とはいえ、次の列車が「あそ6号」であれば・・・。

それに乗るしかないだろう。

その次は30分くらいあるのだから。





友里絵が「次はー、愛紗?」



愛紗が「あそ」



友里絵は「あっそ」(^^;



由香が「それ、昨日のあたしのネター。ライセンス料!」


菜由「ライセンスときたか」


友里絵が「ポップライスならあるぞ」

赤いビニールの円錐を出して、振った。


菜由「懐かしいね。おじさんがさ、火を焚いて。リヤカーで。

カブで引いてきて。」


愛紗は「ぽんせんべって言ってたね。蒸気機関車みたいな黒いボイラーで」



友里絵は「あー、そうなんだ。うちのあたりだと、駄菓子屋さんで買うものだけど。」


由香「なんか・・・どっかで見たなぁ昔。」


と、思い思いに昔話。








その頃のお兄ちゃんは・・・・。


ED76-97を、折り返し列車に連結して

鹿児島貨物ターミナルを出発し、2時間。


122号機よりも、軽快な感じの走行感がする機関車だ。

時折、客車列車を牽引したりもするが

それは、ベテラン機関士、旅客組の仕事である。

主に、寝台特急の夜間だ。



八代を通過したあたり。



快調に、カーブを進んでいる。



第二閉塞、進行!速度、110!


お兄ちゃんは、丁寧に運転している。

万が一、何かあってからでは取り消せない、そういう仕事。

踏み切りがあるので、何があるかは解らない。




コンテナ貨物は、電気直通ブレーキが掛かるので

高速進行が可能である。


但し、停まれるかどうかは、機関士の腕ひとつに掛かっている。




畑が連なる、ゆるーい大カーブ。

午後になると、時折農作業から帰る人がいるので

すこし、減速して。

お兄ちゃんは、事故が無いように・・・と、慎重に走っている。


真由美ちゃんが待っているから、それもあるが。

貨物列車は重いのである。ブレーキが強力なのだが

それでも、制限一杯だと600m、停止距離が掛かると

考えた方がいい。


相当遠くが見えていないと、停まるのは不可能だ。



遥か前方、踏み切り遮断機のjない場所。


籠をしょったおばさん、とことこ。



タイフォンを吹鳴。遠くから。


おばさんが線路外に出て。



一安心。



こういう時は、心臓に悪い・・・。



もし、踏切内で転倒したりすれば

警笛吹鳴が妥当か、と・・・問われる事もある。


それで、事故になれば。




そういう仕事である、機関士。




「高架だとほっ、とするな」と、お兄ちゃんひとりごと。



ブレーキハンドルを握っていた手を、緩める。


 MCを、ふたたび進段。4ノッチ。


モータなので、電力を与えたからと言って

トルクになるとは限らない。

その辺りは知識と経験である。

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