第200話 ハイジとヨーゼフ

真由美ちゃんは、ポットを落とさないように、と・・・

左手でポットの底を押さえて。右手でハンドルを持って。

とてとてとて・・・と、廊下を歩いて。


給湯室で入れようか、と思ったけど。


「そうだ。食堂で入れよう」


食堂には、大きなボイラーがあるから

そこから入れた方が、おいしいかも。



そう思って、階段を慎重に下りて。

ゆっくり、ゆっくり。食堂に向かった。



廊下を、滑らないように歩いて

「食堂」と、鴨居の上に楕円の七宝焼きで書かれたプレートのある

柿渋色の格子がある、硝子の扉。開いていたけれど

そこを通って。



食堂の、キッチンとダイニングの間には

昔なつかしい学生食堂みたいな間仕切りがあって。

そこに、大きなボイラーがついていた。

ホーローの、真っ白の。

そこに、ふつうの蛇口がついていて。



食堂は、まだ早い時間なので

お客さんはいない。




おばあちゃんも、みんなも。

キッチンで、忙しそうに働いている。



真由美ちゃんは、ポットの中栓を抜いて。


ステンレスのくちばしを開きながら、ハンドルを持って。



結構重い。




おばあちゃんが気がついて「真由美ちゃん、お湯?」


とてとて・・・と。キッチンから出てきて。


真由美ちゃんは「はい。重いですね」



おばあちゃんは、にこにこ「そうー。硝子だからね。」と言って

中栓を、そこにあったお皿に置いて。


ポットをステンレスのテーブルの上に置いた。


それから、くちばしを広げて。


蛇口をそこに持っていく。



ゆっくり、蛇口を開くと

とろり、と言う感じでお湯が、出始めた。



「熱いわよ」と、おばあちゃん、にこにこ。



「おばあちゃん、さすが」と、真由美ちゃん、にこにこ。



ポットを持ちながら、お湯を注ぐのは危ないので

ポットを台に置いて、蛇口の側に手を出さない。



手馴れている、安全な方法、なんて・・・

真由美ちゃんは感じた。



おばあちゃんは、中栓を締めて「これ、倒すと出ちゃうから

気をつけてね」と。


それから・・・・「お友達って・・・4人さんの?」


真由美ちゃんは「はい。列車で知り合ったの。女の子だから。心配しないで」



おばあちゃんはにこにこ「はい」。


「帰りは送ってあげるよ、ひとりだと危ないし」




真由美ちゃんは「ありがと、おばあーちゃん」と、にこにこ。


ポットを抱えて、食堂からゆっくり、ゆっくり・・・・。





お部屋の友里絵は・・・「やっぱ、かわいい子がひとりいると、いいね」


由香「うん、友里絵がエロに走んないし」



友里絵「それはつまんないけどー。」


菜由「ははは。でもさーあ、その先は無いぞ」



友里絵「なして?」



菜由「だーってさ、刺激に飽きると、過激になるもん」



友里絵「そっか」


愛紗は「やっぱいいねぇ。田舎って」


菜由「まあ、宮崎もそうだけどさ。鹿児島も」


愛紗「そっか」と、言って、くすり、と笑う。




真由美ちゃんは、階段を昇って。

つるつるの廊下をスリッパで歩いて。

落っことさないように・・・と。


白いホーロー、花柄のポット。

くちばしがステンレスで。ハンドルのとこを持つと

くちばしが開いて、中栓の真ん中のストッパーがぴょこ、と上がって。

それでお湯が出る。


そんな、懐かしいポットを持って。


大抵、凹んだり歪んだりしてくちばしが曲がるんだけど。



それ持って、203号室のドアを開こうとした。



片手で持つと危ないな、重いし・・・。

なんて思った。


「でも、床に置くのはちょっと、不衛生かしら」




それで・・・・。


ちょっと考えて。



給湯室にポットを置いてから、ドアを開けて。

それから、ポットを取りに行って、持ってきた。



「おまたせしましたー。」と、真由美ちゃん。


ポットが重いので、玄関の靴箱の上に一旦置いてから

ドアを閉めて。



「よいしょ」

重たいポットを、TVの脇のお茶器があるところに置いた。

床の間、みたいになっていて。

たいていの旅館は、このあたりにポットがあったり

金庫があったり。



菜由は「大変だった?ごめんね」


真由美ちゃんは「いいえ。ポットが、お湯だから危ないと思って慎重に」



友里絵は「なーんだ。ハイジみたいに遠くまでお湯を汲みに行ったのかと」


真由美ちゃんは「あ!見てました。ハイジかわいいですねー。」と、にこにこ。




菜由「なんだっけ、それ」



愛紗「ほら、ハイジが、ドイツだっけ。クララの家に住んでて。

クララのお医者さんが「お水を一杯」って言ったら。

ハイジが遠くの泉まで、冷たいお水を汲みに行った話」



菜由「あーそーだ。思い出した。」


由香「でもさー、お水ならともかく。お湯じゃなー。」


友里絵「なはは」



真由美ちゃんはその間に、急須を暖めて。

湯のみも暖めて。


お茶を、急須に。



「あんまり熱いと、苦くなっちゃいますから」と。

一旦、湯のみに入れてから急須に。



菜由は「慣れてるね」


真由美ちゃん「はい。家でもよく頂きます。」



「いいお嫁さんになれるわね」と、愛紗。


そうは言ったけど、愛紗自身はお嫁さんにされるのが・・・・イヤで

逃げてきた(^^;






「バウバウ」と、友里絵。



由香「これ、ヨーゼフ。静かにおし」



真由美ちゃん「ヨーゼフ、かわいいですね。もふもふで」



友里絵は、四つんばいになって。「バウバウ」と、真由美ちゃんにすりすり。



真由美ちゃん「きゃは、止めて」(^^;



友里絵ヨーゼフは、舌出してナメようとしたので


由香が「これ、ヨーゼフ!」と、掌でひっぱたいた。


菜由「なりきりすぎ」


友里絵「なはは。わんこも好きだけど」






「お茶って、おいしーね」と、友里絵。


「うん。普段はなんか・・・味わったことない感じ」と、由香。



真由美ちゃんは「ありがとうございます」と、にっこり。



菜由も「見習わねば」


友里絵は「なゆはもーいーじゃん。売れたんだから」



愛紗は「ああ、美点+ね」


由香「そうそう。花嫁さん修行とか」



友里絵「修行するぞ修行するぞ修行するぞ」


菜由「懐かしいな。それ」


由香「あんたはやってもムダだろ」


友里絵「なんで?」


「すぐお笑いになるから」と、由香。



友里絵「なるほど・・・。」



由香「納得してていいのか?」(^^;

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る