第176話 いさぶろう・しんぺい

「じゃ、食べよ食べよ♪。あったかいよ。」と、友里絵。


「おおきいね、これ」と、菜由。


ふつうの肉まんの、倍くらいはありそうな感じ。


「ビッグマン!」と、友里絵。


「なんか後につけるなよ、これから食うんだから」と、由香。


「読まれてるな~。ムネン。」と、友里絵。



展望席ではなく、ふつうの4人掛けに座る。


硝子も綺麗に磨かれていて、観光列車っぽいけれども

普通列車と兼用なので、普通の用務客も乗る。


それで、自由席がいくつかあるので・・・いきなり乗っても困ることはない。




「どれにする?」と、友里絵。


肉まん、ピザまん、カレーまん、ハヤシまん。


「迷うなー。」と、由香。



「愛紗は?」と、菜由。



愛紗は「あ、あたしは・・・後でいいわ」



友里絵は、ちょっと真面目に「お嬢さんだなあ、やっぱ。でもね、それだと・・・・

有馬さんの言う通り、帰るしかないよ。故郷に」



愛紗はちょっと、驚いて「どうして?」


由香も「どしたの?急に。友里絵」



友里絵は「愛紗はさぁ、誰かに可愛がって貰うように育てられて来たから。

誰かが守ってあげないとダメなんだよ。やっぱり。あたしもね・・・前にあったから。」


由香「友里絵?」



友里絵「怖いこと。それで・・・中学も途中で行けなくなったんだもん。

長いものに巻かれてるとね、結局、災いが来るから。

大岡山みたいに、悪い奴がいない世界で生きる方がいいんだよ。ホント。」



菜由「まあ、いいけどさ。肉まん冷めちゃうよ。」



友里絵はいつもの顔に戻って「罪を憎んで、人を肉まん」



由香は「どこまで本気かわからんなー、オマエ」



友里絵「さ、食べよっか。じゃー、あたしはシチューまん」



菜由「そんなんないよ」



友里絵「あ、そーだっけ。じゃ、ピザまんにしよっかなー。愛紗はどれがいいの?」



愛紗は、選べない。いつもそうだったから。

でも・・・ほんとに、どうでもいいのだった(^^)。


「気を使わせちゃってゴメンね。でも、ほんとになんでもいいの。

どれも美味しいと思うもの」



由香「うーん、やっぱ、ひとりっ子ってそうなのかも」




友里絵「あっそーか。あたしみたいにおにーちゃんが持ってくから。

先にとっといたりして。取られないように食べてると

猫が持ってったり」



菜由「ははは、おさかなとかね。」



友里絵「愛紗、かえって悪かったかな、と思うけど。でもこういう事

言っておかないと。女が。

有馬さんとか、野田さんはいえないもの。女が、怖い目にあうと

ほんとに困るから。あたしみたいになっちゃう。」



由香「でも、タマちゃんがいたからさ」



友里絵「あの人がいなかったら、たぶん、ずーっと荒んだまんまだった。

だからすごーく感謝してるんだ。」



由香「そういう人の方が多いもんね。」



菜由「そーだね。出会いって大事だね。ほんと。でも、別に・・・

可愛い、って言ってくれただけなのに。」




友里絵「そうなんだよね。でも、そういう事ってお父さんくらいしか言わないもん。

お父さんはお母さんのものだしさー。」


ピザまんを食べながら。

「おー、あつあつ。チーズがとろけてて」




愛紗は「深町さんが、わたしのお父さんだったら・・・・。」



友里絵は笑って「そんなことないって。あ、でも、そうなると・・・

あたしがタマちゃんと結婚したらさ、愛紗は娘になるのかな?」



由香「未婚の母、じゃないか。でも、これがおかーさんねぇ」




友里絵「これとはなんだ!母上に向かって。図がたかーい。」




由香「へへー。最近こういう母親、多いからなあ。モンペアか。」





菜由「そうはなりたくないなぁ」



愛紗は結局、肉まんを食べて。「わたしって、子供なのかな」



友里絵は「ゴメン、言いすぎたかも。でも、バス・ドライバーをさ

男子ダイヤで乗りたいってのは、やっぱ危ないよ。

怖い目にあってからじゃ遅いもの。」




愛紗はすこし考えて「そうだね。そうかも。」



菜由「乗るならさ、女子ダイヤでするとか。いっその事、国鉄にしちゃうとか。

電車も面白いかもだよ。運転」




車内アナウンスが入る。


女声で、やわらかな。普通列車と同じで・・・・。



ーーーこの列車は、人吉ゆきですーーー。




バスと違うのは、系統番号がないところ。



バスだと、732系統、とか・・・そういう番号で見分けている。

路線が複雑だから。



バスみたいに、料金箱と、運賃表示があるのは面白い。

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