第111話 201D、指宿、定着!

快速「なのはな」号は、ゆっくりゆっくり進み、指宿駅に近づく。



ーーーまもなく、指宿、指宿ですーーー。


シンプルなチャイム、優しい女声の録音アナウンス。

運賃表示があるので、なんとなくバスに似ている。



「うちの路線も、こういう声ならいいね」と、友里絵。


「あの声も、それなりにいいんじゃない?」と、由香。


菜由は「この声聞くと『帰ってきたー』って思うな。」


愛紗も頷く。


「路線だと、右手の窓際に黒い押しボタンがあってね。」



友里絵も「あ、それ知ってるー。早送りと巻き戻しがあって。」



愛紗も「そうそう。よく知ってるね」



友里絵は「だって、運転させて貰ったもの。」



由香が「ああ、免許取立ての時?」



愛紗も思い出した「バスの車庫の中で。でも、怖くなかった?」





友里絵は「ううん、だって、真っ直ぐだけだし。」

深町のバスに乗せてもらって、運転させてもらったのだそう。

その頃、彼はいすゞLR、3491号に乗っていたそうだ。

高床、木の床、機械式シフト、方向幕式の古いバスである。




愛紗も研修初日、3452号に乗った事がある。

シフトが機械式なので、どこに入っているか解らずに最初は困った。

坂などで、エンジンが揺れているとギアチェンジが難しく

登り坂で1速を使うと、2速に上げる時にバスが失速してしまい

エンジンが停止する事もあった。


それなので、1速を使いたがらないドライバーも居た。







「仲いいんだね、タマちゃんと友里絵ちゃん」と、菜由。



「うん!だって、指輪もらったしー。」と、友里絵。



「おもちゃのな」と、由香。



「おもちゃだっていいんだもーん」と、友里絵。



「こどもじゃないんだから」と、由香。




「友里絵は子供じゃないよ」




由香は「じゃ、おとなのおもちゃの指輪か?」



友里絵は「それはアブナイなぁ、青島くん。」



由香は「おっとぉ」



近くで聞いてた高校生が、くすくす笑いながら・・・。


快速「なのはな」は、指宿駅に着く。




「意外に、ふつうの駅」と、友里絵。



「ほんとだ」と、由香。



普通の国鉄の駅。ホームの屋根はスレート、柱は古いレールを加工したもの。

もう、ずっと昔に作られたようだ。



プラットホームはコンクリートのままで、沢山の人の靴底で磨かれて

てかてか光っている。


とても広い空間。そう感じるのは架線がない、と言う理由もある。




駅舎がわに着いた快速「なのはな」は、指宿止まりなので

ここから先、山川、枕崎方面には乗り換え。


でも、そんなに乗る人はいない。



列車の本数が少ないので、バスで行ってしまう人が多いのだ。

鹿児島市内から直通。




「あー着いたー。なんか、長旅した気分」と、友里絵。

伸びをして、バッグを片手。



改札で、周遊券を駅員さんに見せる。

まだ、自動改札になってはいないのだ。




そのあたりも、長閑でいいなと愛紗は思う。

故郷のように思えて。







「あ、見て見て!おおきなお風呂ー。」と、友里絵が指差したのは・・・。


木造の屋根が付いた足湯である。



「お風呂、には違いないな。入るかオマエ」と、由香。



「入ったろうじゃんか」と、友里絵。



「おーし!脱げ脱げ!、拝観料とるから」と、由香。




駅の待合室にいたおばさん達が、にこにこ笑っている。



「あ、すみません騒がしくて、この子ヘンなんで」と、由香。


「すみませーん、ヘンなのはこの子」と、友里絵。




「おもしろいのね」と、そのおばさんたちは笑う。



へへへ、と、愛紗たちも笑って。



駅は、昔ながらの国鉄の駅。

ずっと前からここにあった、と言う感じ。







17時少し前だけど、まだ明るく、昼間のよう。

西の方にあるので、お日さまが沈むのが遅い。

朝も遅い。


この感覚は、なかなか独特である。

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