第86話 12D、豊後中村通過!

「ゆふいんの森」は、渓流に掛かった鉄橋を渡る。


つり人が、清流の中で長い竿を持っていて

グリーン・メタリックにゴールドの「ゆふいんの森」を見上げて笑顔。


レール・ジョイントを通過する車輪の音が、谷あいに響く。


かたかたん・・・かたかたん。




「お魚逃げちゃわないかなあ」と、友里絵は

筍の煮物を食べながら。



「慣れてるだろ」と、由香。



そっか、と、友里絵も笑う。




峠を越えたようで、列車は長閑な田園風景の中を走る。



「旅してる実感があるね」と、菜由。



「懐かしいね」と、愛紗。




「こういう景色だった?」と、友里絵。




列車は、少しづつ市街地に近づいて。


小さな駅が見えてきた。




「うん、海辺だけど」と、菜由。





その駅前にも、古い路線バスが停まっていたりする。




友里絵は「山北みたいだね」と、御殿場線の駅の名前を言う。



由香は「ああ、そうかもね。あの駅も静かで」





「ゆふいんの森」は、速度を落として通過する。



ホームに人影はないけれど、乗務員はホームを注視している。






愛紗が取り分けた「じゃこめし」を、友里絵と由香は

楽しそうに食べている。



「ふつーのしらすごはん?」


「ダシが違うじゃん」


「そっかぁ。おいしー。おにぎりにいいね」



なんて、いいながら。




「じゃこめし」は、ダシで炊いているので

ごはんそのものが美味しい。


割と、小さめのちりめんじゃこは

煮た後のものではなく、身もしっかりとして。


すこし甘いめの味付けが、九州らしい。




菜由は、熱々のハンバーガーの箱を開ける。


ハンバーガーかと思いきや・・・「とり天バーガー」。



「こういうのあるんだね」と、菜由。




「あたしも初めてみた」と、友里絵。




「あんたは初めてで当たり前」と、由香。



そっか、と、友里絵も笑う。




「大分じゃないものね、菜由」と、愛紗。




「あいしゃは見たことあった?」と、友里絵。



愛紗はかぶりを振る。「初めてみた」。




チキンバーガー、ではなくて

「とり天」のハンバーガー。



てんぷらにしてある鶏肉を、甘酢にくぐらせてあるのが

とり天。



パンは大きめで、柔らかい。



「はんぶんこ、しようか」と、菜由。



「分けるのむずかしい」と、友里絵。



「パンが潰れちゃうもんね」と、由香。



「じゃ、とり天を分けて、パンはふたつにして分けたら」と、愛紗。




とり天は柔らかいので、お箸で切れる。




「もう一個買っておけば良かったなぁ」と、友里絵。



「食いすぎだよ」と、由香。




ははは、と笑いながら


とり天バーガーも、分けて食べて。



「甘い、酸っぱい、てんぷらの鶏、バーガー。おいしーね」と、友里絵。



「フライドチキンのとは、ちょっと違うね」と、菜由。



「芥子があるといいね」と、愛紗。



「マスタードじゃない感じ」と、友里絵。

料理は好きな子だ。






「ゆふいんの森」は、市街地を離れて

ふたたび、田園地帯をゆく。


長閑な久大本線は、旅している気分がいっぱい。


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