第72話 向之原ー大分

向之原から大分までは、どちらかと言うと都会に近い

けれど、緑が多い大分らしい路線になって。


田んぼの景色なども見えてきて。


友里絵は「なんか、終わっちゃったって感じ」と。



「まだ始まってないよ」と、由香。



友里絵は「久大本線の旅が終わっちゃった」と言う感じだったのだろうと

愛紗は思った。



都市に近づくと、なんとなく旅、と言う雰囲気にはならないような。



私鉄みたいな狭い敷地の中を、立派な列車が行くので

ちょっと不思議な雰囲気。



「ゆふいんの森」も、ここを通るのだけど。



列車は少し揺れるようになって、速度を落として

ゆっくり、ゆっくり。



大分駅に着く。



「あー、着いたぁ」と、友里絵は

かばんを持って、ホームへ降りた。



コンクリートのままのホーム、スレートの屋根。


ベンチに、なつかしい広告がついていたり。


売店、お弁当とか、新聞とか。飲み物とか。アイスクリーム。



結構繁盛しているみたいだ。



由香は「菜由はここに来るの?」



愛紗は「うん、駅の中にある喫茶店で待ち合わせ」



「じゃ、それまで靴見てこよー」と、友里絵。


「それそれ!」と、由香。



地下道への階段を駆け下りて。


愛紗も一緒に。



改札前の階段にはエスカレータが出来たけれど


3人は階段で昇る。



自動改札がついているのは、さすがに大分駅である。



愛紗は、周遊券を入れて通る。


由香と友里絵は、携帯をICリーダにかざして。



「靴屋さんどこ?」と、友里絵。


改札を上がったところは屋根があって。


一旦ドアの外に出ると、そこに通路があって

お弁当のお店、観光案内所がある

ユニークなつくり。



正面には銅像が立っていて。



右手はスーパー。「駅市場」と言う、古典的な名前。


左手にドトールコーヒーがあって、なぜかその隣が昔ながらの八百屋さん。

隣がパチンコ店と、新旧一緒。



「左側のね、横断歩道の向こうが商店街。靴屋さんもあるわ。

右側は、しばらく行くとトキハデパート。西武みたいな感じね。」と、愛紗。



あんまり、大分で買い物したことはないけれど。



「両方行こう!」と、友里絵。



「回れるかな」と、由香。




愛紗は「商店街をね、少し行くと。右に曲がるとデパートの前に出るけど。

デパートから回っても同じ」



友里絵は「よし!じゃ、商店街から行こう!」。



由香は「じゃ、そうすっか」





愛紗自身は、あまりショッピングとか、おしゃれとかに

興味を惹かれないタイプだった。


大岡山に居る時、ドライバー研修の後に

休暇センターの温泉に行く時も、学生時代のジャージで

出かけていって。


それで、深町に偶然遇って


とても恥かしい思いをしたくらいで。




そういう辺りも、「中身は男かな」なんて思っている理由だったり。



勿論、生物としては女である。




なので、由香や友里絵が靴選びに時間を掛けるのを

想像すると・・・ちょっとウンザリ(笑)したけど

そうも言えない。



駅から、左手に歩いていった。


駅前はひろーいバスロータリーになっていて、バスが沢山停まっていたけれど

そんなに気にもならなかった。


なぜかは分からない。


バスはもう辞めようと思っていたせいもあるかもしれない。



楽しそうに駆け出していく、友里絵と

追う由香。



「いいなぁ、友達って」と、後ろ姿を追い


ドトールコーヒーの前のアーケードを通り、八百屋さんの店先をちら、と見たり。


寂れたパチンコ店を横目で眺め、昭和の情緒かしら、なんて思ったり。



愛紗も、由香も友里絵も、ぎりぎり昭和生まれである。



地下道を通らず、ひろーい道路、片側3車線の国道を渡る横断歩道。

その、信号を待っている、由香と友里絵に追いついた。



横断歩道はとても広く、7mのバスが入ってしまいそうだった。



「横断歩道の途中で停まらないように」と、研修で習った事を連想したり。



12m車になると、後ろの端まで注意が及ばないことも多い。


普通に乗務する路線バス、7m車でも結構あるし

狭い道を走る事も多いから、乗務そのものは12mの方が楽だった。


それで、高速路線バスに人気が集まるのだった。





しばらく待って、信号が青になり


友里絵は楽しそうに駆け出して。「あー、携帯!安いねー。」と、右手にある

携帯のお店に目が移る。


けど、由香が「そんなの見てると靴買えないよ。菜由が来ちゃう」。



「そっか」と、友里絵は靴屋さんを探す。「どこかなーーー。あ、あのヘンかな」と


アーケードのすこし先、左手にある小さなお店に向かって。



「そんなに急がなくても大丈夫よ。」と、愛紗。



菜由が来るのはお昼頃。まだ10時にもならない。



でも、商店街は開いていたりする。


アーケードの天井が高い。


ところどころ、空が見えた。




間口の狭いお店がいっぱいあって。

どちらかと言うと、食べ物よりもアパレルとか、そういう傷まないもののお店が

多かった。


路地のほうには、焼き鳥やさんや、おそばやさんとか。



友里絵はさっそく、靴屋さんに入って。


お店のおばちゃんと仲良くなって。


おばちゃんもにこにこ。なんか、いろいろ選んでもらったり。



由香も一緒に。



どっちが似合うかなー


こっちじゃん?



そっか、な?



あっちは?



とか、楽しそうにしている。




傍観しているような愛紗は、ふたりの楽しさを

邪魔しないように、気を遣って

伯母さんへのスカーフを、お隣のお店で見ていたり。



伯母さんは結構おしゃれ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る