第66話 翌朝

翌朝。


かたかたん、かたかたん・・・。という

軽快なディーゼルカーの音で目覚めた愛紗。



まだ、夜が白み始める頃・・・。



「何時かな?」と、思った。


始発だと、4時半くらいだろう。



「鉄道員なら、当たりまえの生活なのね。」と。

バスも似てはいるが。



研修の間は、会社員のように

朝8時半から、夕方5時半で終わるので

すっかり、体がそれに慣れてしまったが・・・。




それ以前の、時間が不規則な生活が

ストレスになっていた事に気づく。



「深町さんも仰っていたし」


その生活では、人間らしい暮らしは難しい。




そう思うと「鉄道員は止めた方がいいかしら。」なんて

思ったりもした。



「でも・・・他に、わたしに何ができるのだろう?」


とりとめなく思っていると、台所の方からお料理をしている音。




「伯母さんはもう、起きているのね。」


長年、そういう暮らしをしていたのだろう。駅に住んでいたのなら。

始発より早く起き、最終列車を見送り。


「大変な暮らしね・・・。」駅員と言っても。



愛紗は、お料理を手伝おうと

着替えて、布団を上げ

階下に下りていく。



台所に、伯母さんの後ろ姿。


それと・・・由香と友里絵。

伯母さんのお手伝いをしている。



「あ、おはよー!」と、友里絵。


「おはよ。」と、由香。


「ああ、起きたの?」と、伯母さん。



「おはよう、みんな早いのね。」と、愛紗。



「これ、美味しいのね」と、友里絵は

じゃこ天を少し、つまんでいる。


「うん」と、愛紗。


大分ではなく、対岸の四国、宇和島の名産だが

ほたるじゃこ、と言う小魚が原料の、さつま揚げのような、揚げ蒲鉾のような。

弾力があり、少し炙ると香りが立って、美味しい。


かぼすを掛けて、柚子胡椒を添えて頂くと、更に美味だ。



お味噌汁がいい香り。


麦味噌。香りが良く、甘みのある味わい。

昆布だしでも、鰹だしでも合う。


焼き麩も、この辺りでよく頂く。



生野菜のサラダ。

冷やした胡瓜、トマト。レタス。

この辺りでよく取れる梨が添えてあったり。


「じゃ、頂きましょうか?」と、伯母さん。



朝は割と遅いのが九州。


西にあるので、日の出が遅いから。


このくらいの時間だと、まだ暗い。




「ちゃんと朝食べられるの、いいねー。」と、友里絵。



「そうだねー。」と、友里絵。



「ガイドさんって朝早いものね」と、伯母さん。




家族と住んでいると、どうしてもそうなる。

夜が遅いし、朝も早い。


何か食べてから出かけようとしても、家族を起こさないようにと

気遣ってしまう。


愛紗は、まあ、独り暮しだからいいのだけれども。


ガイド寮でも、非番の子が居たりすると

気を遣ってしまう愛紗だったから。



「じゃこ天、おいしー。」と、友里絵。


「そうねー。あんまり向こうじゃ見かけない」と、由香。


「一杯食べていってね」と、伯母さん。「旅程は、そうすると指宿2泊ー阿蘇2泊ー由布院


2泊、になったの?」



「その予定。」と、愛紗。



「じゃ、後でそう言っておくね。愛紗は、どこも行った事あるでしょ?


指宿と南阿蘇。それと由布院」と、伯母さん。



「うん」と、愛紗。




「じゃ、後はお願いね。予約はしておくから。日野の名前で。列車は・・・


たぶん平気とは思うけど、平日だから。一応、新幹線は取っておいた方がいいわ。


今は携帯で予約出来るから、変更も楽々だし。」と、伯母さん。




「さすが現職!」と、友里絵。




伯母さんはにっこり。「遅めの列車を取っておいて、早く着いたら変更するのもいいわ。


駅で、切符を取り出す時間を考えておいてね。券売機で並んでると変えられないから。


まだ、ICカードじゃないの。こっちは。でも、4枚纏めて出せるから。ひとりが代表して


取っておくといいね。携帯の電池が切れても、駅の券売機で変更も出来るし


みどりの窓口でも出来るの。」





「駅員さんね」と、愛紗。



「あなたも駅員になったら、そうなるわ」と、伯母さんはにこにこ。



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