第59話 すてきな瞬間

新幹線は、高架を滑るように走っていく。



有楽町、文化放送の看板が見える。



新橋。

なぜか、坊主頭の看板があったり。



アンビシャス・ジャパンのオルゴール。



ladies and gentlemnen , we will birif stop shinagawa soon ,

please change to keihin-tohoku line , keikyu-line thank you.


自動音声の流暢な英語が流れる。




ーーーまもなく、品川です。お出口は右側です。ドア付近のお客様は開くドアに

ご注意下さいーーー


と、車掌は簡素なアナウンス。



品川で降りる人は、まずいないから。






それほどの人数でもないのは、土曜だから。


平日なら、列はとても長く

列車を待つ。それで発車が遅れるが

新横浜ー小田原が長く。そこで回復可能である。





「・・・そういえば、お客さんが並んでも

いらいらしたりしない友里絵ちゃんだったな」と。



お客さんの注文を面倒がるような事はない、いい子だった。




「あんなにいい子が、どうして学校を嫌いなのかな」と思ったけど

深町にも覚えがある。

愛らしい子だったり、優れた子。そういう人に妬む人は居る。


実際、彼自身もよく、そういう事で仕事を妨害されたりする事はあるのだ。


「まあ、アイザック・ニュートンもそうだったというし。ダーウィン、ガリレオ。みんなそうだな」





だから、友里絵ちゃんのような子を守ってあげるのは社会の義務だ。

と、彼は思っている。




それなので、友里絵が

コンビニの社員に、お尻を撫でられたりすると


同じバイト仲間の麻美に聴き


その社員、50歳すぎの禿げ掛けた男だが


その人に「トシ、考えなはれや。」と。関西弁で

柔らかく、冗談っぽく言うと


その人も「えろすんまへん」と。


それから、その人とも仲良くなれて。






そんなこともあった。




そういう事がいろいろあったある朝。


友里絵が少し、熱っぽいと告げてきて。



そばに来て。


額に手を当てるので、その手に触れると


すこし温かい。


とても、小さくて柔らかい手だった。


おでこに触れると、ちょっと温かい。



その時、友里絵は胸元に倒れこんできて。


とても柔らかい、可愛らしい体だった。



いい香りがして。



そのことに感動した。




しばらく、そうしていた。






そのうちに、客が入ってきて

♪チャイム が鳴って。



素敵な時間は、終わった。








そんな事を思い出していると

心和む。


その子が、いつまでも幸せでいてほしいと

思うのだ。



新幹線は、まもなく小田原に着く。



「営業所に、明日行ってみるかな。」と

なんとなく、深町は思う。





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