第56話 ふたりの気持


「でもさーぁ、愛紗だったらお母さんも喜ぶんじゃない?」と、由香。


「それはそうね。それだったらそれもいいじゃん。どっちみち、アタシじゃ

お母さんは喜ばないよ。」と、明るく友里絵は言ったけど


なんとなく哀しくなった。


少しなみだ目。



由香は、友里絵を抱いて「そんなこと無い!そんなことないよ、きっと。」と。

なぜか、由香も落涙していた。



「アンタが泣くな」と、友里絵も泣いている。


「うるさい」と、由香は乱暴に涙を拭った。


友里絵の頬も撫でて、涙を拭いてあげた。







--------



携帯電話を切るのを

友里絵は忘れていてーーー。




由香が、「あ、友里絵、携帯は?」と。気づく。


手に持ったまま。



ラインはつながったままだった(笑)。





友里絵は「あ、あのー、タマちゃんですか?」



深町は笑う「はい。タマちゃんですよー。」



「今の、聞こえちゃったよね。」と、友里絵。




深町は「うん、でもね。ゆりえちゃんの思うように。僕は結婚とかする

つもりはないです。年齢も46になったし、今から子供作ったら、66まで働かないと

ならない。そんなに研究が続くとも思えない。」



友里絵は「そんなこと・・・・。でも、それでもいい、って言われたら?」



「他の人を選んでね、と言います」と、微笑みながら深町は言う。


「わざわざ苦労を背負う事ないです。生き物ですから僕らは、食べていかないと

ならない。食えなかったら、愛どころではないでしょう?」



友里絵はなんとなく、納得できない。


どこかしら、幸せな結婚を夢見ていたからだった。



ただ、その相手は深町でなくてもいいし、似たような男は

いくらでもいるだろう。



友里絵は「もし、愛紗が望んだら、どうするの?」



深町は「出逢ったのが遅かったね、と・・諦めてもらうしかないでしょう。

年齢はどうしようもないですね、今の社会では。」



友里絵は「それじゃ、愛してないんでしょう!」



と、きつい言葉を投げた。



深町は「いえ、愛しているからこそです。僕の奥さんになる必要はないでしょう?

例えば、工場長の石川くんの奥さん、菜由ちゃんみたいに幸せに暮せていれば

それでいいでしょう?僕の事なんて忘れますよ」



友里絵もよく知っている話だった。


愛紗の同期で入ったガイド仲間の菜由も、愛紗のような気持になった時があって

偶々石川に出逢って。


石川と幸せになっている。




「そういうもんかなー。」と、友里絵。



「そうですよ、きっと。日生さんもそのうち、そういう人が現れます。」と、深町。



友里絵は、なんとなく悲しくなった。「それじゃ、タマちゃん、かわいそう」


と、電話を持ったまま、涙ぐみ始めた。



深町は「いいえ。僕は、友里絵ちゃんと出逢えて。あなたは僕を覚えてくれている。

時々、思い出してくれたりすれば。それで十分幸せです。

それは、結婚しなくても同じですね。」





友里絵は「でも、あたしはね。一緒にいたいの!。何かしてあげたいの!。」



深町は「僕もそうは思うけど。体がついてるから。心だけならいいのにね。ほんとに。

それはどうしようもないですね。そろそろ、僕は電車の時間があるので。

お話はこのくらいで、またね。」



友里絵は「はい。」



それじゃ、旅行楽しんでね、と


深町は和やかに電話を切った。





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