第51話 誰が好きなの?

愛紗の隣に由香。


斜め後ろに友里絵。


なんとなく、そうなった。


「明日なんだけど、私はちょっと由布院営業所へ行って来ようかと思うの。」と

愛紗。


友里絵は「ああ、見学?」



愛紗、頷く。


「土曜だと・・総務は休みでしょ」と、由香。



「あ、そうか。」と、愛紗。



「月曜に電話してみれば?」と、友里絵。



「急にまともになるなー。」と、由香。


「へへへ」と、友里絵。



「ちょっと、見ておきたいの。」と、愛紗。


「真面目だなぁ」と、友里絵。


「キミと違うところね」と、由香。




「国鉄はどうする?」と、由香。



「一応、願書は出すつもり。でも来年だから、それまでは

東山に居る事になるけど・・・・大岡山ではガイドに戻るしかないね。

こっちの営業所、どこかに転勤させてもらうか・・・。」愛紗は迷う。



「辞めるか」と、友里絵。



「それしかないね。でも、ガイドが嫌で無ければ、こっちでガイドの仕事あるでしょ?」と、

由香。


「でも、覚えた頃に辞めるんじゃ、悪いよ」と、愛紗。



と、考えてたら伯母さんが来て。


さっきのおばあちゃんたちと、楽しそうにお話。


その後で、気づいて「ああ、ごめんねーオソクなって」と、



「全然待ってないです」と、由香。


「こんばんはー。」と、友里絵。


「おつかれさまでした」と、愛紗は微笑む。




「なんか、真面目そうなお話ね。」と、伯母さん。



友里絵は「うん、国鉄の試験が来春だから、それまでどうするかって」



伯母さんは「中途が無いか聞いてみる。国鉄だから、縁故だと入れるかもしれないし。」と





「わーよかったぁ」と、友里絵。



「それだといいね・・あ、でも受かるとは限らないか。」と、由香。


「そう、それが一番心配。ガイド辞めちゃってから、宙ぶらりんじゃ」と、愛紗。


伯母さんは、お湯を浴びながら「家には戻らないんでしょ?」と。



愛紗は頷く。






伯母さんは「一般職なら入れると思うよ、枠があれば。どこでも良ければね。

九州とは限らないけど。北海道とか。駅員から、車掌ね。それから運転士かな。」




「東京って事もあるか」と、由香。



「あるけど・・・あんまりないね。九州に住んでたら、せいぜい大阪くらいね、遠くて。

でも、女の運転士って・・・あんまり聞いたことないね。」と、伯母さん。



「運転したいの?」と、由香。



「わかんなくなっちゃったの。」と、愛紗。




おばさんは笑って「愛紗はそういうとこあるね。おとなしくて、言われたとおりにする子だから。

自分のしたい事って、忘れてるっていうか。」



「いい子だもん」と、友里絵。



「理想の花嫁さん」と、由香


「竹下景子か」と、友里絵


「それ、古すぎないか?」と由香


ははは、と。みんな笑う。




石鹸をつけて、タオルで泡立てて。


小さな石鹸箱。


それも、旅する人の楽しみだったりする。


かわいい小物の、石鹸箱を見つけたり。


今、あんまり石鹸箱って見当たらないから。



「愛紗ってさ、ほんとに理想だよね」と、由香。



「恥かしいな、なんだか」と、愛紗。


「私らには、最初っから無いものがあるね。」と、友里絵。




伯母さんは笑って「みんな、可愛いわ。男の人から見れば、みんな可愛いの」と。





「そうかなぁ」と、友里絵。


「ありがとうございます」と、由香。



愛紗は、そのタオルで首筋から撫でていきながら「可愛いから、バスドライバーは

ダメだって言われたから、ちょっと複雑」



伯母さんは「そうね・・・・でも、無理に変わらなくたって、自然に

可愛くなくなるもの、ははは」と。



「そっか、ははは」と、由香。


「そーですね」と、友里絵。


愛紗も気楽になる。「すこし、急ぎすぎてたのかな」と。


「そうそう、人生、なるようにしかならないもの。」と、伯母さん。






みんなで、綺麗になって。


黒湯温泉へ。




「熱い」と、友里絵。


「温いのは、この枠の向こうだって」と、由香。


「先に言ってよ」と、友里絵。


「あんたが早いんだもん」と、由香。



楽しく、黒湯に浸かる。



「あー、きもちいー。」



「昨日、入れなかったから、余計ね」



「キタネー」



「あんたが急に『行く』って言い出したから!」と、由香。


「めんごめんご」と、友里絵。



「仲良くていいねぇ」と、伯母さん。




愛紗も、微笑む。



「そうそう、おばさん、『愛紗』って名づけ親、知ってる?」と、由香。



「さあ・・聞いた話だと、音楽家だって」




「ふーん、そうなんだ・・・・。でもさ、お父さんもお母さんもおじいちゃんも

気に入ったんでしょ?」と、友里絵。





「タマちゃんだったりして」と、由香。


「あーありそう、でも・・・それだったらバスの中でそういうか」と友里絵。



「ゆうべね、そんな夢みたの。顔は分からなかったけど、なんとなく」と、愛紗。




「愛紗さーぁ、やっぱ、それが心残りなんじゃない?それで運転士に」

と、由香。



「あ、そーだよ、きっとそう!」と、友里絵。



愛紗は考えこむ。



「そうやってまた、オトメちゃんを空想に誘うー。これ、由香!」と友里絵。


「キミもじゃん」



「めんご」



「今の冗談なの?」と愛紗。



「そうでもない」と、由香。




「電話してあげる。」と、友里絵。



「それはいいよ。だって・・・・重荷になりたくないし・・・。」と、愛紗。



「想ってくれてなければね。」と、由香。



「ちょっと分からないものね。タマちゃんって。誰が好きなのか、って。」と、

友里絵。



「そうだねー。」と、由香。



「じゃ、お風呂はこのくらいにして、ご飯にしようか」と、伯母さん。



「はーい」と、三人。






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