第37話 友達っていいな

「でも、飛行機は明後日のお昼でしょ?それまでには止むと思うけど・・。」と

愛紗。


列車は、ゆっくり走っているから

かえって、食堂車は楽しい。

揺れないので、ワインやシャンパン、などが

倒れる心配も無いし

スープがこぼれなくて済む。


「あれ?明後日だっけ?」と、友里恵。


「そうじゃない?だって、明日支度して、明後日の朝、空港へ行って。

お昼に宮崎空港」と、由香。



「そっかー。一日間違えててた。でも、明日もっと降るかもしれないね。」と

友里恵。



「そうかもしれないね」と、愛紗。「パスタは美味しい?」


友里恵は「ちょっと食べる?」と言ったけど


愛紗は「ありがと、でもいい。パスタ通の感想が聞きたいの」と。


友里恵は「うん。茹で具合もちょうどいいし、たまごも半熟。パンチェッタも焦げてない。

塩味も適当。生クリームもとろり。とっても上手ね。」と。



由香は「通ね。自分で作れる?」


友里恵は「タイミングがね。難しいの。茹で具合が少し早いくらいで

あげて、絡めるでしょ?ソースに。その時に炒めすぎず、生過ぎず。

そうなるようにしないと。」



愛紗は「難しいのね。」


友里恵は「そう、タイミングってね。なんでもそうじゃない?」



由香は「恋愛みたいなもんかい」と。



友里恵は「そうかも。タマちゃんにあの時出逢ったから、今ここにいるって感じるもん。

恋愛かどうかは知らないけど。そうでなかったら、今でも自棄だった。」



由香は「でもタマちゃん、なんだよね」



友里恵は「そう、あの人って、なんか年がわかんないのね。

20歳以上も離れてるって思えない」



愛紗もそれは思う。




由香「それはそうと、そうするとさ、明日の晩、どっかに泊まるワケ?」


友里恵は「そっか。前泊できないかな。」


愛紗が取っておいたのは、宮崎シーガイア・リゾートだった。


「でもまあ、列車の進み具合によるね。宮崎にまともに着くかどうか・・・・。」

と、由香。


既に、2時間は遅れている。


それ以前に、九州まで走ってくれるかどうか・・・。



「ちょっとスリルね」と、愛紗。


でも、経験上

寝台特急「富士」は、打ち切りにはならないだろうと思っていた。


台風で不通にでもならない限り。



飛行機が飛ばない時、新幹線のない地域への最後の移動手段なのだ。



どうしても行かないとならない人のための。









「あーおいしかった。ごちそうさまー。」と友里恵。


「皿なめるなよ」と、由香



「するかい!」と、友里恵。


愛紗はくすくす。


・・・お友達と一緒だと、落ち込まないでいいな・・・。と。



「なんかさ、アイス買って行こうよ」と、友里恵。


「太るぞ」と、由香。


「いいもーん、タマちゃんは『女の子はちょっと太ってたくらいのほうがかわいい』って言ってた


もーん」と友里恵。



「そっか、それで由香とは遊んでくれなかったのかな?」



「ま、あたしもね、遊んだってほどじゃないし・・・あの時、由香も

一緒に来ればよかったのよ」と、友里恵。



「あの時・・って、ああ、コンビニでね。でも、なんか、友里恵とラブラブっぽかったから。

みんな遠慮してたもん、店で」と、由香。



「そんなにラブラブだったの?」と、愛紗。



「気になる?」と、友里恵。



愛紗は「・・・気になるってほどでもないけど」と

ちょっと恥かしげに。



友里恵は「ま、愛紗だったらお似合いだから、あげる。

あたしはセフレでいいわー。」と、友里恵が言うので



由香が笑う「二号さんじゃないのか。」








まあ、列車の食堂車だから走行音で聞こえないけど。




それに、雨の音もすごい。





「じゃ、ロビーカー行って見よ?」と。由香。




「アイスアイス♪」と、友里恵。


7号車、ロビーカーに

ワゴンさんが居て。


夜行列車だから、青年ワゴンさんがふたり。


「こんばんわー。アイスあります?」と、友里恵。



ありますよ、と。


友里恵は、スパークリングミント。

由香は、ストロベリー。


愛紗はバニラ。



お菓子もいっぱい買い込んで(笑)。



ライムエード、アップルタイザー。

コーヒー。



いっぱい抱えてロビーカー。


「そういえばさ、所長の娘がさ『タマちゃんと付き合いたい』セフレでもいい」って言って。

原賀に頼んだ事があったね」と、由香。



「なにそれ?知らない」と、友里恵。


愛紗は、またドキドキする内容だけど、ロビーカーは、酔っ払いのおじさんが

騒いでるので、まあ大丈夫だろうと


一安心(笑)。



「それでさ、乗務終えたタマちゃんを、原賀とさ、その娘と、あと、誰かが

そう言って誘ったら、タマちゃんは笑って『いえ、いいです』」


と、由香。



友里恵は「へー、そうなんだ。まあ、あのゴジラ女じゃなー。勃たないよ」と

言うので




由香は笑った。「ははは!確かに!」


愛紗も可笑しいけど、可哀相で笑えない(笑)。





「まー身の程って言うか、相手にされっこないじゃんね」と、友里恵。


由香は「そうそう。あの出戻り女もそうだったっけ。」



愛紗もそれは知っている。


先輩の美人ドライバー、恵美の事だが


一時、そういう雰囲気があったけど


タマちゃんは、まあ、関わらなかった。



「あたしですら、ハグ止まりだもん」と、友里恵


「あれは、あんたが強引に迫ったんでしょ」と、由香。



「まあ、17だったしね、無鉄砲だったな。あたしって魅力ないのかなって

悩んで」と、友里恵。


「でも今はわかるな。あの人は、私らのそばに居るような男より

前の世代の人だから、家族を大切にしてるし、優しいんだ、って。」

と、友里恵。


愛紗「そうなの?」



10号車に着く。


愛紗は10号室で、9号と8号が取ってある。



「じゃ、とりあえず・・・。9号が1階だから、そこで」

と、愛紗。



「由香ぁ、1階がいい?」と、友里恵。



「見てみないとわかんないよ」と、由香。



1階は、ドアで。

ベッドの上に2階があるけど、通路は2階のベッド下だから

結構高い。


ここなら、3人くらいは並んで座れる。


2階は・・・・。


開き戸で、階段を昇って床。

隣にベッドのロフトふう。


「うん、1階でいい」と、由香。



それで、3人は9号室へ。



さっきの話の続き・・・をしようと思ったが

なんの話だか、忘れた。



ドアをノックする音「車掌です。鍵をお持ちしました。」


日野さん。



「ありがとうございます」と、由香。


ふつうの家の鍵のような・・・それが

銀色のレリーフのキー・ホルダーに付いていて。


星のマーク。


SOLO COMPARTMENT CAR


と。


「かっこいい!」と、友里恵。


日野さんはにっこり「それでは、ごゆっくり」




「いいねぇ、車掌さんって」と、友里恵。




「車掌さんか。わたしも憧れたっけ」と、愛紗。



由香は「電車の?」



愛紗は頷き「路面電車があったし。この列車にも何度か乗ったから。」



「愛紗だったら成れるんじゃない?」と、由香。



「そう言われた」と、愛紗。


「誰に?」と、友里恵。


アイスをなめながら。




愛紗も、スプーンでアイスを掬いながら「東京駅でね、この列車に乗った人。

旅行作家さんだって。」


由香は「ふーん。なんて?」



「憧れが、もし車掌さんだったら。一度、試験受けてみたら?って。

なれないと諦めて、バスの運転手を目指してたら・・・。後悔するから。」


と、愛紗。



「なーるほど。そうだねそれ。きっと。」と、友里恵。


「受ける分には、会社に黙ってれば分からないし」と、由香。



「それはそうだけど・・・有馬さんとか、野田さんとか。みんなに悪いよ。

会社辞める事になったら」と、愛紗。



由香はにこ、と笑って「それは受かったらの話でしょ!」と。



愛紗は「そっか。ははは」と。


笑えた。



受かるってワケじゃないもんね。



願書だけ出してみよう。



愛紗は、そう思った。

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