第23話 静岡停車

1列車は、そろそろ闇を走り始めていて



沿線から見ていると、美しい編成が

旅情を誘う、そんな時間。



車窓に明かりが灯り、同じ窓が流れて行く。



機関車、電源車、寝台客車。

食堂車、ロビーカー、個室寝台。




紺色の車体にステンレスのラインが窓の下。




テールランプは赤い、丸い明かりがふたつ。





機関車はギアを唸らせ、さながら狼の遠吠えのよう。



流線型を直線で描いたような形。




豊かな時代、ほのぼのとした旅の名残ではなく



激動の昭和を、産業と共に駆け抜けた。




航空券が高価だった時代の、最速の移動手段だったのだ。






その時代が終わり、今は乗り換えなしで

楽しめる、楽な列車として

、また、旅行ファンの郷愁を誘う

存在になっている。







愛紗は旅行気分を満喫している。




とは言え、家にはあまり近寄りたくない気分だ。






車内放送のアナウンスが入る。


ーこちらは、日本食堂でございます。

食堂車では只今、夕食がお召し上がり頂けます。


和洋中、豊富なメニュー、ご用意致しております。



本日は、浜松名産鰻の蒲焼き等のご用意がございます。



ご利用をお待ち致しております。




続いて、ワゴンサービスのご案内を致します。



只今、先頭1号車より順に、ワゴンがお伺い致しております。



お飲みもの、お弁当など各種ご用意がございます。



沿線のお土産物と致しましては、静岡名産

安倍川餅にわさび漬け、浜松名産うなぎパイ等各種ございます。


個室のお客様は、ワゴンにご用の方

恐れ入りますが、扉を少し開けてお待ち下さい。


日本食堂より、ご案内致しましたー






いいな、と愛紗は微笑む。




「ワゴンサービスも、割と楽しいかな」と

旅に出ていて気持ちが優しくなっていて

そんな風に思う。


疲れていると、つい、良くない事を

想像するのだけど。



ついさっきまで、仕事をしていたのに


旅、って開放感が、そう思わせるのか。




列車は、駿河湾の明かりが見える海岸沿いを

通過していく。




時折、台風が来ると

通行止めになる高速道路と並行して走っている。


鉄道は、少し山側にあるので

割と、大丈夫なのだけど。

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