第351話 working for pride
折角来たので、車庫の方まで
行ってみようと
ひょい、と、飛び立とうとして
めぐは、はた、と気づく。
「ルーフィさんみたいに、誰かに魔法を使ってるとこを
見られたら......」
そう思って、空を飛ぶのは止めて。
誰もいないガード脇の路地を
地上すれすれに飛んで見たり(笑)。
魔法もだいぶ、慣れて来たので
そんな事も出来る。
F=mghであるところのhが、ほんの少しだけ
現実よりも上になるように
モデル上のmを設定すれば良いのだ。
簡単に、そんな事が出来るくらい
魔法に慣れて来たのに
神様は、魔法をみだりに使っては
いけない、なんて言う。
まあ、今日は仕方ないけど。
普段は、あまり使わないようにしよう。
そんなふうに、めぐは柔らかく思う。
隣の駅は、すぐ。
でも、車庫はその手前から
ずっと、広がっている。
線路が、幾重にも。
広がって、いろとりどりの列車が、たくさん。
コンクリートの高架線路には
いま、主流のsuperexpressが
風のように駆け抜けてゆく。
颯爽としている。
視線を地上に戻すと
青い客車が、数本。
多くの人々が
車体を洗浄したり
車内を清掃したり。
ベッドメーキングをしたり。
取り替えたシーツや、枕カバーを
大きな袋に入れて
線路脇に置いた、クルマに積んでいたり。
力を合わせて、仕事をしている。
「結構、大変ね」と
めぐは思う。
普段、あまり
見る事のない
電車が、出発する前の姿。
こんなふうに、いろんな人々が
黙々と、仕事をしている。
でも、その人々の表情は
屈託なく明るい。
さほど、楽な仕事とも思えないけれど
仕事をきっちりと、列車のため、
鉄道のため。
そんなふうに気負っている訳でもないだろうけど
でも、楽しそうにみんな、働いてる。
「そういう気持ちに、感謝しないと」と
めぐは、それを見ていて思ったり。
感謝しなさい、と言われると反発したくなるけど(笑)
自然に、列車を愛する人々の姿を見ていると
自然に、頭が下がる。
列車を汚してはいけない、と
ゴミを落とさないように、なんてこれから気をつけよう、なんて
思ったりする。
そして、同時に思う。
こんなふうに、頑張って今まで支えてくれてきた人々に
御礼の意味で、お金を払うのは
意味はある。
でも、その鉄道を
外国のお金持ちの金儲けに使うなんて
すごく、嫌!。
気持ちってそんなものだと思う。
払うコインに変わりないけど
でも、外国のお金持ちが
汗もかかずに、儲けるだけだったら
払いたくない、と
そんなふうに思ったりもする。
郵便だってそう。
郵便配達の人々や、区分をする人、窓口の人。
みんなが、郵便を使う人のために頑張ってくれているから
郵便はある。
なのに、その仕組みだけを
お金で買い取って
儲けだけ貰おう、そんな人がいるなら
嫌。
それは自然な感情だと思う。
みんなのため、って言うのは
社会、自分たちを支えてくれてる人々なんだもの。
「お金で売ったりするからいけないんだ」と
めぐは思う。
この国の鉄道や、郵便を
外国のお金持ちに売る理由なんて、どこにもないんだもの。
ーー実際、めぐの感覚は正しい。
そういう、投資家と言うのは結局、お金を
転がして利益を得るだけだ。
なので、そういう人々は
仕事がある理由なんて考えずに
お金が儲かるように、それしか考えない。
外国に手紙を出すと、
国によっては
届かない事もあったりするのは
配達がお金にならないから、と
捨ててしまうような業者もあったりするから、なんて事を聞いた事があ。
この国では、郵便法、が
あって
そういう事をすると、厳しい罰がある、なんて話も聞いた事がある。
れーみぃの言葉だったかどうか(笑)。
国が、きっちりと、管理しているので
それにお金をかけているから。
もし、外国のお金が
そういうコストをお金儲けの邪魔、と考えると。
国民は、やっぱり困る事になるし
働いてる人々の、誇りもなくなる。
お金のために働くんじゃなくて
人々の為、使命を感じて。
そういう気持ちでないと、仕事は続かないと思う。
めぐは、働いてるの姿を見て
いろんな事を感じた。
リサが、恵まれているのは事実だけど。
おじいちゃんが、長年国鉄に勤めていたから
その、実績で
お金を貸して貰うのは
そんなに悪い事だとは思えない。
むしろ、そのお金を勿体ないと思う人々は
お金を儲けたいだけ、なんじゃないかと
そんなふうにも思ったり(笑)。
リサは、あの中のひとりになりたいと言っているのだ。
「これなのかも」と、めぐは思った。
オトナって、って批判的な気持になる事もある
18歳の自分。
でも、こういうひとたちは、嫌いになれるわけもない。
じぶんと同じ、なんだろうと思う。
がんばってるひとを、嫌いになれるわけもない。
ありのままで生きてる人を。
そういうひとたちが、この世の中を作ってきたんだ。
鉄道で言えば、荒地を拓き
敷石、枕木、レール。
トンネルや、橋。
駅を作ったり。
機関車を作って。
客車を引いて。
夜も朝も、列車を動かした。
そういうひとのうち、ひとりが
リサのおじいちゃんだった。
まだ55歳で、天国に行ってしまったのは
神様に好かれたから、なんだろうか。
....一度、会ったら聞いてみたい(笑)。
そういう人たちは、気持で動いている。
みんなのために、ひとりのために。
めぐ自身は、気づいていないけれど
魔法使いでなくても、世のため人のためって
みんながそうしている。
鉄道会社を最初に始めたひとは、もちろん
お金持ちだったけれども
じぶんのお金を使って、みんなのためにレールを敷いた。
それは投資だけど、それで自分も儲かるなら
悪い事じゃない。
...でも。
なんとなく、めぐは
世の中が見えたような気がした。
もちろん、18歳なりに、と言う事だけど。
そういう、人の気持を考えないで
自分の財布が膨らむことしか考えない心が
やっぱり、良くない。
------>>
ーーー例えば、ジグムント・フロイドが言うような
欠乏への無意識な畏怖が、金銭欲を生んでいるとか。
ーーアーサー・ヤノフなら、原初にある拒絶された愛の記憶が
その、利己性を作っているとか。
ーーアメリカの精神科医が使う、精神分析マニュアルDSMで言えば
障害を生む、要因がその利己の元である、とか。
結局、それはふしあわせだったちいさな子が
その、思い出を忘れたくてもがいているのだろうけれど
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.....などど、めぐが思っているわけではない(笑)。
けれど。
それを、感じ取っていた。
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