第334話 思い出のバンド

駅の改札を過ぎたあたりに、カフェがあって

ケーキセット、とか


魅力的なおさそい(笑)。


だけど、もう夕方なので


「きょうは、ありがと」と言う、リサのお言葉に従って(w)



みんな、名残惜しいけど、きょうは解散。





「さよなら」って、Naomiは

颯爽と。


ほんとにモデルみたいに、さっさっ、と

歩いていったかと思うと


モーター・プールから


シルヴァーのオートバイ、YAMAHA TR1で

片手を上げて駆け抜けていった。




おじいちゃんの愛車だと言う、そのクラシックなオートバイは

柔らかな、猫の足のようなサスペンションを一杯に伸ばして

前輪を路面に捉えていた。



深い、軽い排気音。

V型72度バンク、4ストロークエンジンは軽快だ。

長い鍍金マフラーが、時代を感じさせる。


長四角のバックミラーに、彼女の視線が写っていた。





「ありがと、ほんとに」と

と、リサは

路面電車の停留所へ行って。



黄色と緑の、金属塊。路面電車に乗り込んだ。


デッキのところで手を振って。



一番後ろの、車掌室のところに立っていた。



そのうち、ドアが閉じ


路面電車は、海岸通りに向かって坂を下っていく。







「あー、行っちゃった。」めぐは、あれに乗れば良かったかな(笑)と。


思ったけど。

まあ、歩いていけばいいか。と



「あー、行っちゃった。」と、同じ顔してるれーみぃと(笑)。




「次の、すぐ来るね。」土曜の夕方だから、普段よりは少し

間隔は空いているけど。



6分くらいか。




れーみぃは、にこにこ。



「もう、卒業なんだなー、って

リサを見てて、思っちゃった。


なんか、淋しいから。

学園祭で、なんかしよう!、ね?」と、れーみぃは

にこにこ。



夕方の陽射は、もうオレンジ・ヴァーミリオン。


そろそろ、ブルーに暮れようとしている。



「なんか....? 屋台でも?」と、めぐは


食べ物主体(笑)。



「それもいいけどぉ。 そだ、バンドとか?どぉ?」



れーみぃは面白い事を言う。





「4人でバンド?ビートルズとか、ストーンズみたいに?」と、めぐは

海の向こうのイギリスの、ロック、それもクラシックなそれを言った。



「ビートルズかぁ...うん。いいね、女の子でやると、かっこいいかも。

リサは、ジョージ・ハリソン。

Naomiはマッカートニー。

あたしは、レノン?かな。」と、かわいく笑うれーみぃ。



「レッド・ツェッぺリンとか、ヴァン・ヘイレンとかは?」と、めぐが言うと



うわーハードぉ、と、れーみぃは笑う。



「かわいいのもいいねっ。ロネッツとか、クリスタルズとか。」と、れーみぃ。


「Da-do-ron-ron♪」とか?と、めぐは最初のフレーズを口ずさむ。



「そうそう。それそれ!コーラス合わせたらステキよ、きっと!」と、れーみぃは

楽しそう。




夢が広がって。こんなお話してると

本当に楽しいとめぐは思った。



楽器ができるか、は別にして(笑)。





「それじゃ、ヴォーカルはめぐかな。」とれーみぃは

にこにこ。



「あたしはダメよ、華がないもん。やっぱ、れーみぃだよ。

なんたって、かわいいもん。」と、めぐは


いつもあんまりおしゃれじゃない、短い髪に

簡素な服が好きな自分と



長い髪をきれいに整えて、ベレー帽かぶってたりして

おしゃれでかわいい、上品なれーみぃの方が


ステージに華がある、そんなふうに思った。




「歌....は、自信ないの(笑)、声が軽いし。」と、れーみぃ


そういえば、可愛らしい高い声だけど。




「それもいいんじゃない?男の子が来るでしょ。学園祭だから。」と

めぐは言う。


ふと、思い出すのは....。


向こうの世界でマジックを披露して、有名になった怖さ(笑)だった。




プライバシーなし!(笑怖)。





.....やっぱ、やめようかな、バンド(w)。なんて、めぐは一瞬思った。





「あ、ママ!」と、れーみぃは白い、ちいさなセダンが近づいてくるのに


手を振った。




白くて低い、ファストバックのセダンは

ペイントも美しく、深みがある。


メタルのフロントグリルは気品があって。


ヴァンデン・プラ・プリンセスだった。


イギリスの古参である。




ドライバーは、れーみぃによく似ている女性で


お姉さん、と見間違うような、お母さん(笑)が


ナトーのハンドルを軽く、回していた。




「よかったぁ。めぐ、乗ってって?」と、れーみぃが言うので

路面電車には乗らずに。



家まで送ってもらう事にした。




ドアは重厚で、静かにかちゃり、と開き


シートは、柔らかくて腰のあるレザー。


室内のあちこちに、ローズ・ウッドが使われていて

その、自然な香りが不思議な安堵感を醸していて


作った職人さんの心が感じられた。



いい車なんだな、と


車にあまり関心のないめぐにも、それは分かる。


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