第272話 point it up

好きな、めぐお姉さん(笑)に

触れてもらったのに、


彼は、少し不本意な感情が湧いてくる。




甚だ不条理だけれでも、感情はそういうもので

論理的に出来てはいない。



元々、愛でてもらう事に慣れていて

それが好きな訳でもないのに、愛でてくれる人の

気持を考えて、合わせていた彼。




でも。


めぐお姉さんを、恋の気持で見つめている彼は


対等に。


そう思ったりもして。


それまでの演技の殻を、拭い去りたいと無意識し

それが、不本意な表情になって表れた。





どこまで行っても、お姉さんはお姉さん。


だけど、この日のめぐは、18才のめぐが

タイムスリップして現れたので



お姉さん・っぽくなくて。



それが、彼の抑制を壊した。




彼のクラスメートと同じくらいの年齢に、好きなお姉さんが

降りてきてくれる、なんて事は

魔法使いの知り合いでもないかぎり、あり得ない事(笑)。



それが、起きた。






おとなしい少年、リサの弟は

それでも、そこまでで思いとどまった。


心の中では、本当は


めぐお姉さんを抱きしめてしまいたい、その場でと

そんな風に恋しく思っていたのだろうけれど。







もちろん、めぐお姉さんが


そんなことに気づく年齢ではない。(この日は、18歳の彼女なのだから)。




そういう事は、年齢を経て学習する事である。







「さ、いこっか。」と、その場を離れていたリサが


出かける支度をして戻ってきて。


一緒に、MiniCooperSに乗って、出かけていく


ふたりの後ろ姿を見送る、彼は


どうしたらいいのだろう?と


内心、忸怩たる思いで、それを見つめていた。









つまり、めぐにとって

この場を離れて、3年前に帰る事は

正しい事、である。





その前に、すこし


リサに付き合ってから。


と.....。


めぐは、市交通局の

路面電車車庫へ。



ミニ・クーパーSに乗って。



「じゃ、わたし行くね。お家へ帰るなら

電車乗ってって。無料でいいわよ。」と


リサは、楽しく家族的なこの勤め先らしい言葉で

別れを飾った。



めぐは、頷く。


今度、(3年前の)夏休みの登校日でリサに会ったら

悩みが癒されるように、言葉を掛けてあげたい。



「おじいちゃんは、リサを誇りに思ってるよ」って。



でも、未来を見てきたとは言えないけれど(笑)。



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