第235話 kamome



kamome



「さむくんは、昔

船乗りさんだったのかしら。


それとも、かもめ?

海が好きで、浜辺でいつも海を見ているのは


思い出が、なんとなく呼ぶのかしら?」と


めぐは、ひとりごとでもなく

そんな事を言った。




お話を書いている、と言う

さむの飼い主さんは「そうですね。


なんとなく、惹かれる事って、ありますから。


さむは、かもめの生まれ変わりだったのかもしれませんね。」と


悲しそうな表情だった彼女は、

少し、柔らかいな微笑みを作った。





ふたりの、思い出の中に


さむの思い出がある。



時を越えて、いつまでも記憶はそこにあって。


つまりそれは、4次元の記憶だ。






さむくんは、かもめだったのかしら?



生まれ変わって、わんこになって。



海が、空が、恋しかったりしたのかしら?




と、めぐは思う。





こんどは、生まれ変わって、大きな空を飛んでいるのかな。





「かもめになったら、飛んで来てね?」と


めぐが言ったので



それが唐突で



絵本を書いている、彼女は



微笑む。






めぐも、ちょっと恥ずかしい(笑)。


一緒に笑うと、淋しい気持ちは

優しい気持ちになった。






岬から、バスで帰る時


めぐは、海辺に漂うかもめさんを

眺めながら。



あの中に、さむくんは

いるのかな?



なんて。


思いながら

バスに乗っていると、そんなに遠いとは

感じなかった。




気持ちって

面白いけれど


そういうもの。



考え事とか、していると

そちらの時間軸、つまり

記憶は時系列が一定ではないので



現実の、3次元的な

一定の時間軸は気になったりしない。



そんなものだ。







港の駅、路面電車の始発駅まで

来る頃には、もう


夕方近くになっていた。




結構な距離が、岬まではあるようだ。



そこから、いつもの図書館通りまで

路面電車に揺られてると

図書館は、休館なのに

明かりがついていて。




めぐは、図書館前で下りる。




古いタイプの路面電車は、


ガタゴトと揺れて、レールの響きを伝えながら走り去ってゆく。





その、車体の向こうに



見慣れた図書館。



休館なのに、なんで?



と、思いながら


めぐは、通用口の


ガードマンのおじいちゃんに聞く。



「どなたか、いらっしゃるのですか?」






通用口のガラス張りのガードマンさんの詰め所で



おじいちゃんは、にこにこ。



「主任さんかな?なにか、お仕事をされているんじゃないかな。」と。





主任さん、久しぶりだな。


めぐは、ちょっと微笑む。




向こうの世界では、主任さんに


似ている人に出会ったけど



まるで知らない人だったので


ちょっと淋しかったっけ。





並行な世界って、そういうものらしいけど

でも、なんとなく淋しい。



めぐは、通用口からの廊下を

懐かしく思いつつ


楽しく歩いた。



ここは、あたしの町なのね!。




そう、なぜか再確認(笑)。


記憶の積み重ねで


だんだん、そこに住んで行く。



いろんな事を覚えて。


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