第233話 I'll never see your smile again

I'll never see you smile again



でも、岬の家に、あの

さむくんのお家のひとは

めぐの事を知らないから



行っても、困っちゃうかもしれない。


けど、めぐは


どうしても、あの


さむくんに、お礼をしたかった。


魔法を間違えて(笑)2次元の絵本の

入ってしまっためぐを

助けてくれた恩人、だったのだから。




彼がいなかったら、めぐは

今頃、ここにはいなくて



絵本の中にいたかもしれないんだから。





彼にとって、何も得でない事なのに

朴訥に、彼は

めぐを救ってくれた。




優しい、そんな彼が

天国にいっちゃった。




突然だけど。





それで、会いたいって思った。







めぐは、いつもの路面電車を

港の駅で降りて



バスに乗り換えて。






オレンジ色のバス。

アイボリーとのツートンカラーで


なんとなく可愛らしい、まんまるバスは

ゆらゆら揺れて、岬を目指した。

モペッドだと遠く感じないけど



結構、バスはのんびり走るので



遠く感じた。




時間の感覚ってそんなもので



早く、会いたいなんて思うと

道中が長い、なんて思ったり。





それでも30分くらいで、岬に着いた。





記憶を紐解きながら、めぐは

あの岬の家を目指す。




坂道を降り、松林。



砂混じり風、さらさら。


砂浜に風紋。





なぜか、岬にあるそのお家。




おうちはあったけど、さむは

もういない。





そう思うだけで、めぐは

涙ぐんでしまう。






さむと、一緒に住んでいる三毛猫、たまが


とっとこ、とっとこ。



涙ぐんでいるめぐの、足元、すりすり。






めぐは、しゃがんで


たまを撫でる。





「あったかい.....」温もりだけで



なぜか、有り難く感じる。



淋しいときって、そんなもの。








たまの後を追って、あの

絵本を借りた子が


めぐのそばに来た。





「お姉ちゃん、泣いてるの?ぽんぽんいたい?」と




優しい声を掛けられると、なおさら

涙が零れてしまう。




「ままー」と、その子は

母さんを呼ぶ。



あの、絵本を借りに

巡回バスに来た人。




「いかがなさったの?」物腰が上品な

その人は、しかし若い人で



優しげな雰囲気。






めぐが、あの、さむくんが、と言うと



その人は、察して


めぐを、家の向かい側、岬の海が見えるところに

招いた。





「さむは、ここから海を見るのが好きでした」と



その人は、もう遠い表情で渚を見る。




そこに、さむの墓標があった。




いつも、使っていたらしい

おもちゃや、

お散歩紐。



それを見てるだけで、めぐは


泣けてしまう。





どんなに想っても、もう、あなたの笑顔には


出会えない。



I'll never see you smile again....



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