第198話  それぞれに夏




それぞれに夏



おばあちゃんは、Megのおばあちゃんに

お電話して「そういう訳なので、坊やを、

ルーフィさんにお願いしたいの。


これから行っていいかしら?」



おばあちゃん同士、こういう時は話が早い(笑)


共有する、生きる目的に対して

人間同士は協調的だ。



女同士のほうが、共通の目的、例えば


子供を育てること、などについては

協調的である。




それは、群れをもつ動物としての

行動様式であったものであると

動物行動学などの観察結果では


そう語られている。




つまり、そうした

生来的な

正しい行動によって


おばあちゃん同士は、行動の意思決定が早い。



子供にとって正しいこと、良いこと。




そういう共通認識は普遍性があるから。



往々にして、男同士は

この方面には劣っているようだが(笑)



それは、男同士は


競って淘汰される性だから、である。(笑)



それもまた、動物行動学の論理、たとえば


コンラッド・ローレンツなどが有名であろうか。




争ってしまいがちなので

協調が難しいのである。







リゾートホテルの電話、ちょっと旧式な

黒い電話機の

受話器を下ろして

おばあちゃんは、にこにこ。





「ちょっと、言ってくるわ?めぐ、先に帰る?」と。



めぐは、いっぱい泣いたので


すっきりしたのか


すっきりした笑顔で、かぶりを振る。






おばあちゃんは、にこにこ、うなづいて。



坊やの手を引いて、丘の上温泉、という

このリゾートホテルの、のどかなバス停に行った。



10時35分。



緑色のバスが、揺れながらやって来た。





旧式な、高い床のバスは

木の床。


空気で動く自動扉は、折れ扉なので


おおきな音を立てて、がたん、と開く。




おばあちゃんには難儀な階段である。


でも、床の木の感触と

床油、と呼ばれるワックスの匂いは

どこか、懐かしいもので


おばあちゃんも、少女だった頃を


思い出す。





それで、楽しい思い出に浸れるのなら


あながち、古いバスも悪くない。




そんなふうにも、

おばあちゃんは思う。





優しかった時間の記憶。



それは、たとえばめぐのようなかわいい孫がいても

受け継いでもらえるものでもないから




もう、おそらくそれほど

長い時間を生きることもないだろうと自覚している

おばあちゃんは、そんな記憶を

何か、形にして残しておきたいとか


思ったりもする。





記憶の時間、記憶の空間は

誰にも平等だ。





思い出は、時と共に消え去る。






バスの扉は、空気の力で

シリンダを伸ばして。


てこにつながった折戸が、ばたりと閉じる。




バスは、運転手の左手で

ギアを1速にセットされ




運転手の左足がクラッチをつなぐ。


エンジンの出力が上げられる。



それは、運転手の右足が上げるのだ。





そうして、運転手の一部のように

バスh、おおきな車体を揺らしながら

坂を下ってゆく。




坂を下っていると、遠い岬と水平線が見える。

リゾートらしい雰囲気。



空気が少し澄んで来たのか、青空が

コバルトに落ち着いて見え


おばあちゃんは、秋の訪れを感じる。



また、今年も夏を越すことができた。




おばあちゃんは、そんなふうに思う。



おばあちゃんとおばあちゃん、全共闘(笑)



バスは、ものの数分で

Megの家のそば、停留所に着く。

位置関係は、向こうの世界、めぐの家と全く同じで


平行世界は、まあそんなものである。



そこで、また難儀して

バスを降りる。

運転手は、にこやかに礼をし、バスを発車させた。


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