第182話 風





風、空気が物体だと

実感する一瞬。



自身が動いても風を感じたりするけど


渦巻きの真ん中に自分がいる感覚は

あまり感じる事はない。



地球が時速1700kmで動いているので

その慣性から離れれば

自然と、速度差が起きて


空気は渦を巻いたりする。



空に昇ると、空気の渦も

一緒に昇ったり。




小鳥が、三角屋根で

不思議そうに、その様子を見ている。




あまり、人に見られたら困るので(笑)




もちろん、見られたら

魔法は消えてしまう。




それなので、めぐは雲の中に入ろうと考えた。




上昇する速度を早く、早く。




0次元へのモデリングを進める。





重力加速度は、結構な力なので

急に加速すると、苦しかったりする。


空気も薄くなる。





でも、ようやく低い雲に追いつき


誰にも見られずに済んだ。




「夜に飛べばよかった」と、めぐは思う。

それで、魔法使いは

みんな、夜にほうきで飛んでいくのかしら。




めぐは、アニメーションの絵本を

思い出したりした。



危機



その時、めぐの視界にルーフィの姿が

一瞬。


4人で飛んでいるのだけれど、背中合わせにして

視界に人が入り、集中を妨げないようにと

おばあちゃんがそう言った。




風で、少し体勢が揺らいだのだろう。



そのルーフィの姿を見て、めぐは

幻想的な空間飛行から、現実の恋の事を

思い出してしまう。



集中が途切れ、4人の足元にあった

光る魔法陣は、揺らぎながら空間に裂けてしまった。




それは、まるで超弦理論の0次元紐モデルが

揺らいで宇宙崩壊するようにも見える。



「あぶないわ、めぐ」と、言葉は穏やかだが

危険をおばあちゃんは察し、なにやら言葉を呟いた。


それは、ケルトの言葉のようでもあったが




その言葉で、空中に霧散していた

魔法陣は、それぞれに


ブラウン運動のモデルの反対みたいに

凝縮を始め、再び光る魔法陣が

現れた。



その間に高度が少し下がり、空を旅する

つばめたちが、雲をかすめて

飛んでいくのが見えたり。



めぐは、落下の怖さで

脚が震えた。



自分ひとりなら、落ちる事はこれまで

なかったから


4人で飛ぶのには、相応の力が必要だと


実感。





「おばあちゃん、ありがとう」危機を

平然と乗り切るおばあちゃんは、

すごいな、と


めぐは、とても感謝した。



少女時代



めぐが、おばあちゃんを偉大と思うのも

無理もないけれど


でも、おばあちゃんにも少女時代があって

その頃は、やっぱり恋した時もあっただろう。


動揺する事だってあって。

だからこそ、いまのめぐの気持ちが良く解る。


リカバリーも簡単だ。



でもそれは、めぐが劣っている事では

もちろんない。



過ぎた時間の記憶の蓄積、である。




それは、どんな人間にも平等だが

魔法使いは少し違っていたりする。


時間軸を伸縮したり、多重時空間に

旅したりできるからで



生物学的な代謝のメカニズムから見る「一日」が



記憶の中にある一日と等しくはない訳で



めぐのように、早くから時間旅行を続けると

経験時間によっては、相応の

経験値が蓄積されるだろうから



おばあちゃんになった時には、スーパーおばあちゃん

になるかもしれなかった。





でも、それは

めぐが魔法使いの生活をこのまま続ける場合の

話で




シンプルに、人間としての愛を追って

魔法使いを辞める事もありうるから




例えばクリスタさんのように


天使としての前途を捨てる、そんな感じに似て


魔法使いではない方が幸せ、そんなふうに

もし思ったら。






ひょっとするとこの日の経験は

めぐをそう思わせるかもしれなかったり。





おばあちゃんも、ルーフィも

それを危惧したりした。



なにしろ、危険な目にあうのは

たまたま、いま、魔法使いだからと言うだけ

なのだから。




もし、めぐでなくても

坊やをもとの世界に戻す事ができれば


危険な目に合わなくても済む。





客観的にはそうだけど



でも、めぐがそう考えている訳でもない。




いつか、そう思わなければいいのだけれど。



いたいけな気持ち



危機を乗り越えて、再度上昇をし

そして、0次元モデルになった4人は

ミクロ多重時空間、11次元空間

に向けて加速する。


ニュートリノ粒子は、その加速を促進する。



波動的側面により。




目的座標を捕捉し、再実体化。




急加速を避ける為に、3次元化を

ゆっくりと行う。






ひゅう、と


風を切るような音を感じる頃には

目的の時空間に到達している。




見覚えのある、どこか違う世界にめぐと、他の3人は



空中を、ふわふわと綿毛のように舞い降りた。




舞い降りた先は、めぐの家の裏手にそっくりの

草原、それは

Megの住む世界。



めぐのいる世界に似て非なる世界。





見た目、そっくり。でも違う。




それを知ってるのは、Megだけだった。





特に知らせる事もできなかったので


その草原には、Megの姿はなかった。




空中で魔法陣が消え

ゆっくりと草の上にふわ、と

4人は着地。





さく、と

草に踏み締める音がして

靴の下に感じる植物の存在に

めぐは、驚いてしまった。


草を踏むのが可哀相な気がして

空中に飛び上がり、地面に下りた。





幼い頃からそういう子供だった、めぐ。


おばあちゃんは、そんなふうに回想した。


かわいらしい絵が描かれた

お菓子の包装を、破く事が出来なくて

食べられず、ずっと

見ていたり。



そんな子供だったっけ。




おばあちゃんは、いまのめぐの

動きを見て、微笑む。





いまも、変わってないのね。



恋を抱きしめよう



風景は同じでも、めぐにとって異なる世界。

天使さん、クリスタもいない。

にゃごもいない。



一方のルーフィにとっては、住み慣れた(?)場所。



不思議な事に、おばあちゃんはそっくり。

でも、めぐのおばあちゃんは魔女の扮装なので(笑)



ハロウィンにはちょっと早い仮装かな?(笑)と言う感じ。




かぼちゃで提灯でも作ろうかしら。




そういう感じ。




でも、家の裏手に顔を出した人は

Megの母、つまり、向こうの世界なら

めぐのお母さんに、よく似ているけど

別の人。



あっ、とめぐは思った。



お母さん、と言いそうになって

でも、その人が、めぐの事を

娘だと思っていない。



それは当然。



こっちの世界でのMegの母は、魔法とは

脈絡のない人生を送って来たらしい人。






娘Megに似ているめぐ、の事を

奇異の視線で眺めている。






その事が、ちょっと悲しい

めぐだったけれど。




でも、仕方ない。



見た目そっくりなのに。





それだけで、めぐはもう

帰りたくなってしまった(笑)。





ルーフィをふと、見ると


彼は、ぬいぐるみ姿になって

草原に転がってた。





それも仕方ないけど、こちらの世界では

ルーフィは存在を悟られないように

そうしているのだった。






それだけを幸い、とばかりに

めぐはルーフィ(のぬいぐるみ)を抱きしめた。




やめてくれー、と

ぬいぐるみに宿ったルーフィは、ちょっと

どきどき(笑)しながら。



かわいいめぐに抱きしめられてた。


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