第140話  電車さん



電車さん



「オートバイさんとお話ができたのに、モペッドさんと、お話できなくて。

ちょっと残念ですね。」と、めぐ。



ルーフィは「偶然だったけどね。

オートバイさんは、必要があったから

話掛けてくれた。

そんな事が無かったら、黙っていただろうね。にゃごみたいに。」



めぐは、すこし考えるみたいに

吊り革が、ゆらゆらゆれるのを

眺めながら「にゃごも、お話できるんですね、にゃんこの間では。」と


楽しそうに、微笑んだ。




もちろん、ひとの言葉は通じないけれど


心の言葉で、通じるかもしれないね。




そんなふうに、ルーフィも思ったりした。



電車は、停留所での

お客さんの乗り降りが済んで。



ドアを閉じる。


空気が抜ける音がすると


運転手さんの前にある、計器のひとつ、針が少し動いた。





「本当に生きてるみたい」と、めぐは

計器の動きを眺めながら。



運転手さんがブレーキハンドルを緩めると、針が二本ある計器の

針のうち一本が、す、と上がる。



「どうなってるのかしら?」とめぐは

考えたり(笑)。



「ああ、あれはね。

元々、空気の圧力でブレーキを緩めるようになっていて。



いつも、一杯の力とバネの仕掛けでね、ブレーキが掛かった状態で止まってるの。



それを、走る時だけね。

空気をね、反対側に掛けて

ブレーキを緩めてるんだね。





と、ルーフィはさらりと言う。



でも、めぐにはちょっと複雑。




「んー、わかんない。」((笑))




ルーフィは楽しそうに「運動会の綱引き、みたいな感じかなー。

両方から力が掛かって、真ん中は

動かない。



それが、ブレーキが効いてる状態。


緩める方向に動かすには、かたっぽの力を抜くか、もう片方に力を足すか。」




「ふつう、力を足す方向で考えますね。」と、めぐは言う。




「そう、でも電車は重たいし、空気圧力を瞬間に上げるのは大変だけど、下げるのは楽。



もともと、エネルギーが高まってる状態から、下げるには楽だね。


自転車のタイアがパンクする時みたいに。


でも、空気入れるのは大変でしょう?」




なるほど、と

めぐは、なんとなく分かったような気がした。




「空気が抜けると、ブレーキが押されるんじゃなくて、走る時に

引いておくんですね。」と。



ルーフィは「そうそう。重いもの、電車は。


急に止まるには、それだけの準備がね。いるのさ。」と。



電車は、また

歯車の音を響かせて、モーターが唸りを上げた。


重いよ、って

電車さんが言っているみたいな

そんな気になった(笑)めぐだった。



「重くてごめんなさい」と


めぐは、ちょっと恥ずかしそうに(笑)。



クリスタさんは軽そうなので

いいなぁ、とおもったり。(笑)




「お嬢ちゃんは重くないよ」と

めぐに、誰かが語りかけたような気がして


めぐは振り向く。


低い、だけれども優しげな声だ。



ルーフィは、めぐが振り向いたので

すこし、驚いたけど


なんとなく、雰囲気で分かった。


めぐが、心で電車さんの心と

お話してみたい。


そう思ったから、電車さんが

答えてくれたのだろう。





「あなたは・・・・電車さんなの?」と

めぐは、心でつぶやいた。




その声は、静かに頷いて。



「そう。わしはお嬢ちゃんの乗っている電車さ。ずっと、この町を走ってるんだよ。もう・・・仲間も減ってきたけれど。」と、電車さんは

孫とお話するおじいちゃんのように

静かに、優しく語った。





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