第83話  アイスココア




フランスのスキーリゾートとか

スイスのお山、あたりでは

ココアは夏の飲み物だとか。


スカイレストランのシェフは、ヨーロッパが好きで

若い頃、フランスで修業してきたので


今でも、休暇の度にフランスへ出かけたりして


それで、こんな

楽しい話を聞かせてくれる。


お店を出そうかと思っていた時に

この、図書館が建て直されて。


レストランのシェフに採用された、と

笑う。



「この年でね、公務員なんだもの」って


日焼けしたお顔で、白い歯を見せて

笑う。


めぐのお父さんくらいの年齢だけれども

いいなぁ、と

おもってしまうめぐである。



どうも、めぐは若い男の子が苦手だった。



なんというか、動物的、って言うのか

粗暴な感じがして。




エレベーターに乗って、めぐとクリスタさんは

5階を目指した。


きょうは、割と図書館は空いている。

夏休みなので、海や山へ出掛けたのだろうか。


エレベーターホールは、やや暗くてメタリックな装い。


新しい感じがして、そのあたりも

めぐは気に入っている。




エレベーターホールから、東側の奥手に

スカイレストランはある。

屋上の、太陽のようなモニュメントの

中側が、展望室になっていて

景色が良いし、上品なので

人気のある場所だった。


もちろん、カジュアルでは

本当はダメなのだけれども

女の子は、気品のある服装なら

通された。



もちろん、男の子は正装である(笑)。



めぐは職員なので、もちろん通れる。



クリスタさんも。



簡素であったが、清楚な服装だった。





レストランに入ると、「こんにちは」と

時々、ロッカールームで見かける

ウェイトレスさんがにこやかに


ご挨拶。


「こんにちは」と、めぐが言うと、



「あら、お姉さん?そっくりね。

双子みたい」と、ウェイトレスさんは

短く揃えた髪で、まるく微笑んだ。




天使さんです(笑)。



そう、本当の事を言いたいめぐだけど。


それは言えない(笑)。



従姉妹のクリスタです、と言うと



いいお名前ね。と彼女はにこにこ。




年齢はめぐとそう変わらないはずだけども


ウェイトレスさんは、なんというか

大人、レディーね、と

めぐはおもってしまう。



クリスタさんの事を「お姉さん」と見るウェイトレスさんは




めぐとクリスタさんをそっくり、と

言いながら


微妙に、クリスタさんのステキなとこを見て



「お姉さん」と言うのかな。




そんなふうに、めぐは

ちょっと思ったりもした。




でも、それは思い過ごし。


いつかはレディーになるのだけれども


今のままのめぐは、かけがえのない

ステキな時間を過ごしている。




後になって気づくものだけど。





「奥で、お待ちよ。ボーイフレンド」と

ウェイトレスさんは言う(笑)。


もちろん、ユーモア。


めぐは、かぶりを振って「お目当ては、こちら。」と

言うと、ウエイトレスさんは



「そか、ざーんねんでした。」

と、ユーモラスに首を振った。



クリスタさんは、なんのことか

わからない

(笑)。



天使だもん。





レストランのエントランスから、同じフロアーのテーブルでも


海が見えたり、山が見えたり。




でも、展望室は

そこから、短い階段を昇ったところにある。



ステップは3つ。

音のしない靴なので、めぐと

クリスタさんが昇っていっても

彼は、気づかなかった。

図書館に行く時に、唯一

気にする事、それは

音がしない靴で行く事だった。


本を読むのに、邪魔にならないように、と言う

心遣い。



さりげなく。



遠くに山の見えるこの町は、海に面している。


観光地に程近い中核都市なので


比較的、商業も盛ん、そのせいで

文化的雰囲気にはやや薄いところもある。


面白いもので、商工業の盛んなところは

だいたい、どこでも文化的ムードに薄い。



そんなところなので、図書館を綺麗にしようと

考えたらしい。



それで、レストランに居る映写技師さんも

大学を出てから映画を作っていると言う、面白い人。



本当に商業映画を撮るなら、芸術学部の映画学科を出て

映画会社に入る、なんていうのが順当な人生。



でも、個人映画を作っていたいというその人は


そんなに、お金儲けには興味がないのだろうし

もの作りに信念のある人、なのだろう。


商業的に作品を作るのは、人によっては辛い時もあるからだ。




そういう、主張のある人生を送っている人は


好みもあるけれど、いまのめぐ、には

ちょっと重い、と思わせるだけの雰囲気があって。


例えば軽妙洒脱なルーフィの自由さとは

対極をなすものだった。




もちろん、それは感覚。


でも、恋って感覚。それでいいのだ。




そういう「今」のめぐと、最初の人生のめぐとは

同じ人。


でも、人から見る彼女の雰囲気が、今は自由闊達で

生き生き、やや奔放に見えたりするあたり(笑)



とってもステキなのだけど。



かつての人生では、魔物に追われたせいで

慎重になってしまっていて。


そこが、映写技師さんに好まれて。



今は、そうではなくて。





「ようこそ、いらっしゃい。」と、映写技師さんは

展望席の椅子から立ち上がり、ふたりに椅子を勧めた。





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