第68話  天使さんの歌



ちいさな子は、めいめいに

好きなご本を持ってきて。


「よんでー」

「これ、よんでー」


(笑)



なので、ちょっといっぺんに読むのは無理。



「じゃあ、読書室にいきましょう」と


と、めぐは、小部屋になっている


読書室を、クリスタさんに奨めた。


ふつうのおうちの、リビングくらいの

広さだけど

図書館で見ると、なんとなく狭く

感じるのが不思議。



東向きで、明るい白い壁の

がらんと何もない、ちいさな子供と

絵本を読むための、スペース。

時々、お母さんが、お昼寝したりしている(笑)。


それはそれで、いいこと。



この図書館は、そういう場所。


みんなが、楽しむところなのだ。




子供たち、めぐ、クリスタさん。



そこに入ると、扉を閉じて。



図書館だから、静かにしてあげないと

本を読む人が、かわいそうだから。



それで、タイプライターを打つ人のために、最初は考えられたそう。



今は、みんなコンピュータになったから


それほど、音を気にすることもない。



それなので、子供達が騒いでも

大丈夫なように(笑)。



こういう時は、お部屋に

連れて来る。そんな感じ。




「なにして遊ぼうか?」

めぐは、楽しそうだ。


子供達も、絵本でも、なんでもよくて。


遊びたいのだ。



ちいさな子供達は、いろんなひととふれあって


いろんなことを、覚えていく。


時には、いたずらをして

叱られたりするけれど



お母さんがやさしくしてくれれば

そんな時、安心したり。


ちょっと、いたずらしてみて

お母さんの優しさに甘えるのが

嬉しくて、そんな事をしたりする。


そうして、許してくれる優しい人が


そこにいるって覚えていく。


大切な人だって、思うのだ。




恋愛も、なんとなく似ている。

優しいその人が、わたしを

許してくれる。ささえてくれる。


そんな時、その人を

忘れられなくなる。


そういう恋もあったりする。





「ゆきのひとひら」の

続きを、クリスタさんは

読みはじめた。


「ゆきうさぎさんは、おみみをぴょこ、としてから。

さくさくさく。



丘のむこうがわに、あるいていきました。


ふわふわの粉雪の上に

かわいい、あしあとがちょこ、ちょこ・・・。」



クリスタさんは、自然に

クリシェの、きれいなメロディーを

口ずさんだ。



無伴奏の、バロック音楽のように

典雅な響きを感じさせる歌は

天使さんらしい、心を惹かれるものだった。



子供達も、めぐも


すっ、と


歌声に引き込まれた。




眠ってしまう子もいたり。



時間を忘れてしまうような、ひとときだった。



天使さんのお仕事



歌声は、とても微かなもので

爽やかな風のように、空間を満たした。


「すてきね、クリスタさん」と

めぐは、笑顔でそういった。


クリスタさんは、すこしはずかしそうに

俯いてうなづいた。




「おうた、うたって?」と

こどもたちは、クリスタさんに戯れた。



クリスタさんが、天使さんだとは

どの子も知らないだろうけど

歌声の美しさは、感覚で判るのだろう。



分類すると、対数目盛りのグラフで

きれいな幾何学的図形になる

その音階と和音。


不思議なものだけれども

特別、勉強しなくても

こどもたちは、おそらく

普遍的に感覚を持っている。



それを、時間の流れに沿って並べるメロディー、時間に関係なく鳴らすとハーモニー。



ハーモニーとメロディーは、同じ音階とは限らないけれど

調和する音、そうでない音があったりする。



それも分類なのだが、根拠はやはり数学、幾何学的な集合であり


物理的に言えば、周波数、と言って

一秒に何回振動するか、で

分類した数値の事だが


それが、たとえばオクターブで

値が倍になる。



偶然ではなく、そうして

音階を作って行ったのだが



そのオクターブは最も調和的響きで


その次に、5番目の音と協和的である。



それは、分類でも美しい形だし

感覚的にも美しい響きなのだ。




神様の領域と比喩されるが

物理はそれが、自然であると

定義している。



自然だから美しく聞こえるのである。

 

その感覚は、自然界で生きてきた

長い時間の中で記憶されてきたものだ、と

進化生物学は教えてくれている。。




天使が、人間の生理に沿った

歌声を歌えるのは、少し不思議な事だけど


天使も、この3次元空間では

物理の法則に

沿っている。



そういう事なのだろう。




近年語られるゆらぎ理論、なども

自然法則を象徴しているもので



周波数が高くなるほど、ゆらぎが

小さいのは当然で


高い周波数は、小さく軽いものが

振動するからなので

大きな重い物は、ゆっくりとしか動けないので



ゆらぎも大きくなる。




それも、時間の経過に沿って

観測した結果である。


時間は、かくも支配的なので

時間旅行は、とても

魅惑的である。






子供たちは、とても楽しそう。


歌を歌うだけの事で、そんなに喜んでもらえるなら。




音楽は、心を解放する。

時間の流れに沿って、音の流れを追って行くのであるし

ふつう、快い表現をするものだから、で


たとえば、子供たちが自ら

音楽を選んで聴く事はそんなにないから


時々、音楽に親しむのはいい事なのだろう。






「いいよね」と、ルーフィは、クリスタさんの歌を聞いて、そう思った。



わたしもそう思う。



子供たちが、幼いとき


若い親は、扱いが分からないで

ちょっと、子供にとって辛い扱いをしてしまう事が

計らずともあったりする。



そんなとき、大人がヘッドホンで音楽を聴いて

解放されるような、そんな事を

幼い子はできないから


快い音楽を、時々聴いて。


その快さを記憶して、育っていけば


傷つく子も減るのかな、なんて、わたしは


元悪魔くん、いまは、にゃごになっている

彼の事を連想したりした。




もし、クリスタさんに、映写技師さんが

恋心を覚えると(笑)



ふたりはライバル、に

なっちゃうんだけど。




もちろん、クリスタさんが天使だと言う事は

誰も知らない事だし、誰も信じないだろう(笑)。


ニンゲンの姿をしていても、心は天使さん。

そういう人は、ひょっとするとクリスタさんのような天使さん

なのかもしれない。

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