第62話 That's the way of the world



めぐは、クリスタさんと

ふたりで。


ロッカールームに向かった。


その、後ろ姿を見ていると



「ほんとに姉妹みたいだ」と

ルーフィ。



「偶然かしら」と、わたしは

何気なく。




「うーん、わかんないけど。

一緒にずーっと暮らしてたから

似てくるのもあるんじゃない」と

相変わらず、アバウトなルーフィ。



「何か、曰くがあるのかも

しれないね」とも。



曰くなんて、きいたことないけど(笑)。



まあ、こっちのめぐは

わたしとは、似てるけど

ちょっと違うんだけどね。









めぐは、ロッカールームで

クリスタさんに、新しいエプロンを

奨めた。


グロス・ブラックで

オレンジ色で「としょかん」と

胸のところに刺繍がしてある、

いつも、見慣れてるそれ。



ロッカールームは、誰もいない。

静かで、白い壁。

グレーのスチールロッカー。



どこにでもある感じ。



「そのね、紐のところをループにして、首にかけるのね」と、

めぐは、自分がいつもしているように。


胸当てから出ている細い紐を

肩に回して、交差させて

横から、ループに通して。

背中でちょうちょ結びにする。




「こう・・・ですか?」


クリスタさんは、うまく紐が回せない。




「このエプロン、初めて?」と、

めぐは聞く。



「はい」と、クリスタさん。


ちょっと恥ずかしそうだけど、

天使さんだもの。



エプロンで家事、なんて(笑)


それはしたことないだろうな。(笑)





背中クロスが大変っぽいので

首のとこで、ループにして

くぐるようにした。



そういうふうにしてる子もいる。



今は夏休みなので、結構、みんな

休暇を取っていた。




もともと、図書館でバイトする子の

ほとんどは、カレッヂに行ってて

司書資格を取って、採用試験を待ってる、


そんな子がほとんどだったから

ハイスクールのめぐよりも

夏休みが早かった。


それで、ヴァケーションに

出掛けてしまっているのだった。




図書館そのものは、正規職員だけで


仕事はほとんど間に合う。



なので、めぐたちは

ほとんどインターンシップみたいな

そんな感じだった。





「うん、ステキね、クリスタさん」と

めぐは、にこにこ。


ふんわりヘアーのクリスタさん。

さっぱりショートの、めぐ。


ふたりで、にこにこ。



「さ、いきましょ!」


「はい」



ロッカールームから、短い廊下を歩いて


さっきの、第一図書室へ。





ほんの少しの時間だったのに

返却カウンターには、列が出来ていた。



「お待たせしました、どうぞ」と

めぐは、慣れた手つきで

コンピューターの、返却スイッチを押した。



返却と書いてあるのは、ディスプレイの画面なので


そこをタッチしてもいいけど

慣れた人は、キーボードのF1キーを押していた。




それを、クリスタさんは不思議そうに見ている。



「あ、とりあえず見ててね」と、

めぐはクリスタさんに言い

テキパキと作業。


返却の雑誌を、バーコードリーダーで読み取らせる。


すると、画面に雑誌名と

借りた人の名前、返却日が表示される。



簡単なデータベース検索だが

天使さんは、コンピューターを

見たことがないらしい。




不思議そうに、大きな瞳で見ている。




返却カウンターの向こうでは

銀髪のおばあちゃんが、にこにこ。

やわらかな表情で



「かわいいのね」と、めぐと

後ろにいるクリスタさんを見比べて


「よく似てる。お人形さんみたい」と

にこにこ。



めぐも、にこにこ。「あ、いえ・・・」

恥ずかしくなって、それしか言えなかった。


リーダーで読み取った雑誌の

無線タグに返却情報を書き込む。



雑誌を、ライターにかざすと

ぽん、と音がする。



面白い機械なので、クリスタさんも珍しそうに、眺めていた。。



「どうなってるのかしら?」と

つぶやきみたいに。



「わたしも、よくわからないの」と

めぐ。











Island in the sky



居並ぶ、返却カウンターの人たちが

とりあえず捌けた。



めぐが、コンピュータ処理をして、クリスタさんが

その本を返却カートに移す。



最初は、大きい本、小さい本、と

分類していたクリスタさん、だった。



途中で、それを返す書架がある事に気づいた。



「めぐさん、これは....書架に戻すのですか?」



「はい」と、めぐは答え、「ああ、そうですね。本の背中に貼ってある

分類コード、数字ね。その順番に並べて置くと返すの楽ね。」



郵便配達の順路表みたいに、カートを進める順番に

本を並べると便利なの、と


めぐは言った。



「でも、さっきみたいにいっぱい並んでるときは

とりあえず、並んでるひと、大変だから。重たい本持って

立ってるの」


だから、先に処理しちゃうのね。



そう、めぐは言った。


クリスタさんは「自動で処理できたらいいですね。」と、

なんとなく。



めぐは思った。



.....。自動。



入り口のRFID検出機で、本の情報は読める。

だから、貸し出ししていない本が通ると

チャイムが鳴るもの。





.....似たような仕掛けで、できそう!。



なんとなく、ひらめいたりして(笑)。




ものを考えるのは、楽しい。


作るのも。



ソフトウェアを作るのは、女の子向き、かもしれない。



体力も図面もいらない。


発想と言語能力だけ、だもの。





「ありがと、クリスタさん!}と、めぐは

アイデアをもらえたことに感謝した。



クリスタさんは「....はい。?」と、


ちょっと意味が分からない。




「ああ、面白い事思いついちゃった!みんなが並ばなくていい仕組み。

クリスタさんが教えてくれたのよ。」



「....?」クリスタさんは、やっぱり訳分からない(笑)。


でも、なんとなく仕事が創造的で面白い、って事は

感じ取れたみたい。




事務的職業みたいな司書、でも

考え方ひとつで、楽しくもなるし

創造的にもなる。



本が好きな人が、もっと好きになってくれるように。


それは、最初から変わってない。



機械の言葉



プログラムも、仕掛けをみなければ

魔法、に似てるのかしら。


そんなふうに、めぐは思った。



「貸出は、F2キーですか」と、

クリスタさんが、柔和に

たずねてくる。



いま、お客さんはいないので

その間に、少し仕事を覚えよう。


そんな感じかしら。




「そう、F2、を押してね。」

と、めぐはにこやかに。


「どうして、画面に触れてもいいのですか?」


と、クリスタさんは素朴な疑問。



「それは、画面のその場所を触ると、F2キーを押したのと

同じスイッチが入るの」と、めぐ。



「スイッチって、明かりを点ける、あれ、ですか?」と、クリスタさんは

幼い子みたいに聞くので

めぐは、愛しくなった(笑)。




「はい。コンピューターってね。

スイッチが一杯入ってるの。

それで、点けたり消したりして

言葉や数字を、人間のね。

それを覚えていくの。」と

めぐは、学校の授業で習った事を

そのまま言った。



「ことば・・・・」クリスタさんは、少し思案顔。



「そう。たとえば数字のゼロ、はね

コンピューターさんは、スイッチをひとつも入れないの。

一、は、ひとつ入れるのね。」と

めぐは、数学の2進法の授業を

思い出して。



「2は、ふたつですか?」と

クリスタさんも楽しそうに。




「はい。ふたつのスイッチで、でも

ひとつめのスイッチは切って。

ふたつめを入れるの。」と、めぐ。



「両方入れると?」と、クリスタさんはクイズみたいに。


「4かしら?」と、めぐも少し不安げ(笑)。



「そうなんですね。それで文字は、どう覚えるのですか?」と、クリスタさん。



「その数字をね、組み合わせて文字を覚えるの。例えば、記号の?、は0133、と言うふうに辞書があるのね。

そのキーを押すと、辞書が数字の0133、と翻訳するのね。」と

めぐは、こないだ使ったキーの

コードを答えた。





「外国語みたいですね」と、クリスタさん。



「はい。魔法みたいでしょ?」と

めぐはにこにこ。




・・・・・そういえば、ルーフィさんの

書く魔法陣も似てるって。



そんなこと言ってたっけ。



ふと、めぐは

イメージで、ルーフィを空想した。



遠くから来て、また、遠くへ帰って行く。



不思議なひと・・・・。


彼の世界は、一体どこなんだろう。



それは、未だ謎だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る