第60話 9 のんびりモーニング


のんびりモーニングが終わって。


図書館に

とりあえず行く事にした、めぐ。



お休みを貰って、わたしたちのところへ旅する、そのお許しを

司書主任さんにするため、それと

クリスタさんを代役(笑)に

するために。




「休暇もらえるかなー」と、めぐ。



「クリスタさんってめぐに似てるから

髪をアップにしたりすれば、わかんないんじゃない?」と


わたしはジョーク。


「天使さんに似てるって、なんか嬉しい。」って


めぐもにこにこ。



クリスタさんも「めぐちゃんみたいにかわいくできるかしら」なんて。






わたしとルーフィも、図書館に

ついていくことにして。


家の前の坂道、細い路地を

こんどは4人一緒に降りていく。




「でも、天使さんであたしと一緒に

18年も過ごしていたのって」と、めぐは言う。



「重くなかったですか」と

クリスタさんも、ユーモア。



「いえいえ、ぜんぜん」(笑)と

めぐも。


天使さんが心に宿っているめぐは

そういえば、ちょっとだけ

天使さんみたいだったっけ。



それも、懐かしい思い出。



そのめぐに恋しちゃった人も

いたりした。





でも、わたしに恋する人は少ない(笑)。なーんて。




坂道を下りながら、ご近所さん、お向かいさん。


お水を撒いているおばさん、とか


にこやかにごあいさつ。




べつに気にならなかったけど、


向こうの世界と変わりないから

ここが違う世界だ、って言っても

ほんとにわからない。




お向かいさんも、不思議にも

思っていないのかな。


B&Bのお客様かな、くらいに(笑)。






天使さんと人間さん



坂道を歩いて、石畳の大通りに下りると

路面電車の停留所が見える。


図書館には、歩いても行けるけど


クリスタさんも一緒だし、たまたま

走ってきた電車に乗る事にした。



重たい鋼の塊感がある、古い形の

路面電車。


石造りのビルディングの間に張られた

ワイアに、架線が引かれて。


その下を、ゆっくりと

揺れながらやってくる。




線路の継ぎ目を車輪が越える度に

意外に軽やかな音を立てて

重い電車は、近づいて来る。


質量は、地上の重力に従って

重さ、の実感を与える。



アイザック・ニュートンが

林檎の落果を見た時と変わらない

G=9.8m/(s)2 である。



最近は、ニュートン、と言う単位で

それを表記している。



3次元的な概念なので、

例えば空間が歪み、重力場が

複数あれば


マクロレベル、例えば

地球の自転に伴う重力場の

計算値と実測値に差異が生じたりする。




それを観測すると、地球上には

異次元の空間が点在しているとする

論文すらあるくらいである。





ルーフィたちと、めぐたちの空間も


そんな、隣接する空間であるようだ。




「あ、電車、きたきた!」とめぐは

電車停留所で、挙手。



バスみたいだけれども、路面電車は

そんなふうに走っている。


時刻表はあるが、ほとんど曖昧なもので


日中は、15分くらいでやってくる、そんな感じの、楽しい乗り物だ。



時刻表が必要なのは、お仕事や

学校に行く人の朝、くらいで


別段、慌てる事のない人には

気にする事もない、そういう代物だった。



電車が、ブレーキを軋ませて停車する。


鉄の車輪に、樹脂のブレーキ片を

当てて制動をするので


振動して、大きな音が出る。



変な音だけど、機械っぽくて

好ましい、と言う人もいた。






空気仕掛けの扉が開き、乗車。


階段を2段昇る、木造りの床。



ワックスの匂いがする。




「さ、クリスタさん」と

ルーフィは、彼女をエスコート。


「これが、路面電車なのですね」と

クリスタさんは楽しそう。



天使さんになる前も、路面電車の

ない町にいたのかな?


珍しそうに、車内を見回している。



ステップをのぼるクリスタさんは

ちょっと不思議なくらいに軽快だ。


・・・・・そういえば。

クリスタさんは、天使でも人間でもない、と言っていたから

未だ実体が無いのかもしれない。


質量が無ければ、重力場の

影響は受けない。



異次元の空間を持つと言うのは、そういう事で



移動が高速で出来たりするのは

そんな理由もある。




グリーンのモケットで

ベンチのようなシートは作られていたけれど

その簡素で武骨なデザインは


かえって、故郷のような温かみを感じさせた。


でも、とりあえず空調が入っていて

一応は近代的ではある。


車両はそこそこ空いていたので、わたしたちは

並んで、シートに腰掛けた。




図書館は、駅に近い方なので

お買い物とか、ご用のある方とか


日常っぽいひとたち、それと

夏休みなので、どこかに行くのだろうか


カラフルな服装のひとたち。

楽しそう。



「わたしたちも、旅に出るのかなー」なんて

めぐは、そんな風に。



「旅かぁ。出かけるまでも楽しいのよね」と、わたし。



トラベルライター、なんて仕事をするとは思わなかったけど

その前からも、旅行はなんとなく好きで


あちこち出かけた。



出かける前に、プランニングしてる間が、一番楽しかったりするんだけど。







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