第12話 海岸

森をまっすぐ南に進んでいたところ、なんか潮の匂いがしてきた


「海が近いのかな?」


「飛んで確認しようか?」


「ううん、匂いがしてるから近いだろうし、それに、だからって別に何かあるわけじゃないだろうしね」


森を抜けると、真っ白な砂浜が広がっていた。ただ、何かあるわけじゃないと言ったのは撤回する


「……へんなのがいっぱい浮いているね?」


「何だろうね、あれ」


茶色の石みたいなのが海面にいっぱい浮いている。亀の甲羅でもないだろうし、なんだろ


興味本位で近づいたところ、ザバッと海面に虫の顔が大量に


「ぎゃーっ!」


私は女子があげるような悲鳴ではなく、ゴキブリを見たときの母親の叫び声で叫んだ


「っとうっさいな。なんだよ急に」


「ゲンゴロウ?」


千佳が冷静に相手を分析する。ま、まあ、私もゴキブリでは無いと思っていたよ、うん、真っ黒じゃないしね


「ああそうだが。見たところお前らも蟲人か? 俺の事は愛称でゲンさんとでも呼んでくれ。ちなみに、産まれはロシアだ」


「ゲンゴロウだからゲンさん?」


「そうだ。ついでに言うと、こいつらは俺の手下だ。完全な虫のはずだが、何故か俺の言う事を聞くから一緒に行動している。ところでお前たちは何をしにこんなところへ?」


「私たちは、仲間探しと異変の調査に来たんだよ」


私達はハクの村の話をゲンさんにも聞かせる。話した感じは悪い人じゃないと思ったから。悪い人だったなら、こんな何十匹も手下が居て、私達を手下に襲わせればすぐに殺されてしまうだろう


「ふーん、興味はあるが、水が無いとなー。水であれば海水だろうが淡水だろうが平気なのだが。それに、大所帯だからいきなり押しかけても迷惑だろうし、そもそも俺以外は会話が通じないし俺の言う事以外聞かねーからな。ま、考えとくわ」


ゲンさんはそう言うと、一旦水の中に潜る。長時間海面から顔をだしていられないのだろうか


「それはそうと、ここから少し東へ行ったところに、ここの森とはまた違った感じの、ジャングルみたいな森があるんだが、行ってみるか? 行ってみるなら連れてってやるよ」


私は千佳と顔を見合わせる。調べれる場所があるなら調べるに越したことは無いけど、不安もある。最悪、千佳に飛んでもらって帰ってこればいいかな? やったことないけど


「ほら、ぐずぐずするな、背中に乗れ。そっちのトンボっぽいねーちゃんは自分で飛ぶか? 飛ばないならそっちの手下に乗れ」


千佳は飛ぶ気はないようで、大人しくゲンゴロウの背中に乗った。私もおそるおそるゲンさんの背中に乗ると、思ったよりもがっしりとしていて滑り落ちることは無さそうだ


「じゃあ、いくぞ」


ゲンさんは一応落ちたときのためにか、私たちの周りを十匹ぐらいでぎっしりと埋めて泳いでいる。遠目に見れば島が動いているように見えたかもしれない


島までは思ったよりも近く、10分くらいで着いた。最初にどれくらいで着くか聞いてから乗ればよかったかもしれない。主に千佳の食事とトイレに関係するので


「俺達はしばらくこの辺で過ごすことにしたから、用事が終わったらまた乗せてってやるよ。それじゃな」


「乗せてくれて、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


私と千佳はゲンさんにお礼を言うと、ゲンさんは前足を振ってすぐに潜ってしまった。よし、新たな場所の探索を始めるぞ!

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