第119話 アスカとルナ(1)


 皆の事を信じて、僕達は北門へと向かった。


「師匠――こんな時くらい、自分で走った方が……」


 僕の台詞セリフに、


「嫌なのじゃ♪」


 と師匠。僕の背中に負ぶさり、楽しそうに言う。

 そして――ギュッ!――と僕にしがみ付くと、


「おぬしは嫌なのか?」


 寂しそうな口調でささやいた。


「その聞き方は卑怯ひきょうだと思う……」


 僕の言葉を肯定と受け取ったのか、


わしの勝ちじゃな!」


 カッカッカッ!――と師匠は声を上げて笑う。

 案内役を買って出てくれたレイアが、


「楽しそうだね」


 と微笑ほほえむ。どうやら、彼女には僕と師匠が仲のいい兄妹に見えているようだ。

 街の人々は既に避難したのか、大通りに人の姿はない。


 急いでいるので丁度いいのだけれど<ロリモン>は、それほど早く走れなかった。

 飛行が出来るルキフェとイルミナは別として、メルクとガネットは見た目通りの歩幅しかない。


 例外として、アリスの足が早いだけだ。


(いや、メルクも球体になって転がれば早いのだけれど……)


 『ロリライブ』の後、直ぐに移動したため、メルク達の服装はアイドル衣装のままだった。現状、メルクの手をアリスが引き、ルキフェには背嚢リュックを背負わせている。


 イルミナにはガネットを抱えて、先に門まで向かって貰った。


何故なぜ、わたくしが荷物持ちをしないといけませんの!」


 とルキフェは愚痴っていたが、


「嫌なのかのう?」


 という師匠の言葉に、


「わ、分かりましたわ……」


 そう言って、観念したかのように項垂うなだれた。

 <ロリモン>同士の世界でも、上下関係は厳しいようだ。


 無事、北門へ着くとずは戦況を確認する。遠くで雷鳴が何度が轟いた後、<冒険者ギルド>や教会で『人々が突然倒れる』という現象があったらしい。


 推測するにハナツが<魔族>を討伐してくれたのだろう。

 倒れたのは<魔族>に操られていた人間達だ。


 操っていた<魔族>が倒されたため、操られていた人々は気を失ったと考えるべきだ。恐らく、じきに目を覚ますだろう。


 念のため、教会で浄化するように指示しておく。

 一方、街中には<魔族>が侵攻しているらしい。


 ただ、バルクスさんが暴れたお陰で<魔物>モンスターの数は予想よりも少なくて済んでいるようだ。後はヨロイの頑張りに掛かっている。


(まぁ、妙に自信があったし、大丈夫だろう……)


 いざとなればセシリアさんも居る。

 『ロリライブ』を行ったため、街の<魔素>が浄化された筈だ。


 神官たちの使う神聖魔法は、本来の力を取り戻しているだろう。


「気を付けてね……」


 レイアの言葉に、


「心配いらないよ」


 メルクが守ってくれるしね――と僕はメルクの頭をでながら答える。


「うん! 私、頑張るよ♥」


 うにゃー♪――とメルク。

 そんな彼女の様子にレイアは微笑ほほえむと、


「メルクちゃんも無事、帰ってきてね」


 とメルクを抱き締めた。


「勿論だよ☆」


 メルクは答える。その様子を見て、


「どうやら『人間と<ロリモン>が仲良くする』という世界は実現出来そうじゃな」


 と師匠。彼女には、他の<ロリモン>達をトイレに連れて行ってもらっていた。

 僕は苦笑すると、


「これはメルクの性格が――」「おぬしのお陰じゃ!」


 師匠は僕の言葉をさえぎるように言葉をつむいだ。


「礼を言う」


 それだけつぶやき、顔を赤くすると師匠はそっぽを向いてしまった。

 どうやら照れているようだ。


 一方、レイアはメルクから離れ、立ち上がると、


「そうだ! 今度、母もお礼をしたいと言っていたよ」


 そう言って両手を合わせた。

 普段は凛々しい彼女だけれど、家族の話をする時は年相応の女の子になるようだ。


 ルイスやミノスの件もあるので、料理をご馳走してくれるらしい。


「いつものパターンですわ!」


 とルキフェが騒ぐ。


「家族ぐるみの付き合い」


 とはイルミナ。何故か呆れた様子だ。

 二人共、なにか言いたい事があるらしい。


 しかし、それよりも人の家に『お呼ばれ』したのであれば、礼儀作法を教える必要がある。セシリアさんとウラッカに相談しよう。


「アニキ、トラブルの予感だゾ」「ふぇ~、大丈夫でしょうか?」


 今度はアリスとガネットが心配そうにする。

 二人には少し早いかも知れないけど、頑張ろうね!――僕は微笑ほほえんだ。


 その様子を見て、


「分かっていませんわ……」「分かってない……」


 とルキフェとイルミナ。

 いったい、ことの事だろう?


 流石にルキフェの縦ロールは難しいけど、ガネットのツインテールなら出来るようになった。僕も成長している。


「じゃ、僕達は行くね!」


 レイアや衛兵達にそう告げる。

 門の外に<魔物>モンスターの姿はない。


 すべて南門の方へ誘導されたようだ。

 僕達は門を開けてもらい、堂々と街の外へ出るのだった。



 †   †   †



 初夏の風が吹き抜ける。空は晴れているというのに『宵闇よいやみの森』がある方角の空だけがくろに染まっていた。


 ――やはり、不気味だ。


 僕達は人目の無い場所まで移動する。

 そして、師匠はおもむろに衣服を脱ぎ出した。


 僕はそれを受け取ると【アイテムボックス】へと収納する。

 最後に下着パンツを受け取ると、


「危ないから、離れておれ……」


 と師匠。僕達がその言葉に従うと【竜化】のスキルを使用した。

 師匠は光に包まれる。


 同時に少女の輪郭シルエットが変化した。

 次に現れたのは鎌首を持ち上げる巨大な<ドラゴン>だ。



  正体不明アンノーン



 <メッセージウィンドウ>が表示される。

 どうやら、僕の今のレベルでは分からないらしい。


 緑の鱗が日の光を浴びて、宝石のように輝いて見えた。

 仮に<エメラルドグリーンドラゴン>としておこう。


「さぁ、乗るのじゃ!」


 その<ドラゴン>は師匠の声で語り掛けてくる。

 僕達はその言葉に従う。


 向かう先は『黒い魔素』の発生源と思われる『宵闇よいやみの森』――その最深部だ。

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