第111話 防衛作戦(3)


 皆の視線が僕へと集まる。とんだ無茶振むちゃぶりだ。

 しかし、断れる状況ではない。


 ――『黒い魔素』が原因だろうか?


 レイアの言っていた通り、西の空が暗くなっている気がする。

 すでに『さいは投げられた』ようだ。


神殿都市ファーヴニルは結界に守られていましたよね?」


 僕の質問に、


「はい、ですが強力な<魔物>相手では効果がありません」


 とセシリアさん。続いて、僕はレイアに質問する。


「レイア、<魔物>モンスターの中に飛行タイプはいた?」


「ああ、あまり強そうではないが数が多い」


 と教えてくれる。


「――という事は弱い<魔物>モンスターを先導している司令塔ボスがいるね」


 僕は人型兵器ロリガインに、


「悪いけど、空の敵は任せていいかな?」


 出来れば、敵の司令塔ボスを先に倒して欲しい――とお願いする。


「任せてください! では行きますよ――ハナツ!」


 人型兵器ロリガインに呼ばれ、


「はい!」


 と彼女は返事をする。


 ――なんか魔法のコツをつかんだのだろうか?


 以前のハナツとは違う。

 どうやら、自信があるようだ。


「そういえば、『勇者の証』は手に入れたの?」


 セシリアさん経由で人型兵器ロリガインには地図を渡している。

 もし、あの洞窟を攻略しているのなら、戦力として数えていいだろう。


 僕の質問に、


「はい!」


 と答えるハナツ。なんだか頼もしい。


「謎のお姉さんと一緒に攻略しました」


 と言って『おでこ』を見せてくれる。

 そこには『赤い紋章』がかがやいていた。


(『謎のお姉さん』というのはアルティさんの事だろう……)


 『ロリス教徒』でもないハナツに、自分の正体を明かす気はないようだ。


なんひたいに?」


 思わずつぶやいた僕の言葉に、


「アハハハ……転んで頭から光に突っ込んでしまいました」


 ショボーン!――とハナツは恥ずかしそうに言う。

 やはり、彼女は『ドジっ娘』のようだ。


(それも『実害』のあるタイプだ……)


「それなら、オレも手に入れたぜ!」


 とはヨロイ。ツルギから聞いたのだろうか?

 彼ならゲーム知識があるので、ヒントさえあれば攻略出来るはずだ。


 彼はおもむろに、何故なぜか尻を出した。


なにしてんの?)


 疑問に思ったのもつか、尻が光り出す。

 そこには『緑の紋章』が浮かび上がっていた。


「オレも転んで、尻から突っ込んでしまった」


 とヨロイは笑う。


 ――絶対、嘘だ!


「そんな訳ねぇーだろっ!」


 汚い物を見せるな!――とツルギがヨロイの尻にりを入れた。


「おふっ♥」


 とヨロイ。なんだかんだで、この二人は仲がいいようだ。

 僕はヨロイとハナツに対し、


「二人とも戦力として、頼りにしてるよ」


 と言って苦笑する。


(思ったよりも戦えそうな気がしてきた……)


 僕はセシリアさんに視線を向けると、


「問題は守りをどう固めるかだけれど……」


 そうつぶやいた。

 現状、この神殿都市ファーヴニルの最大戦力は『ロリス教徒』だ。


 ただし、強い事は分かっているが性格に問題がある。

 そのため、誰も正確な戦力を把握してはいなかった。


「確かに『ロリス教徒』は戦力になります」


 ですが数が少ないです――と返される。

 つまり『<魔物>モンスター程度には負けない』という解釈でいいらしい。


(ただし、配置出来る場所は限られているのか……)


 僕は次にウラッカを見た。


「冒険者も王都の方へ出払っていて少ないです」


 動かすには報酬も必要です――と教えてくれる。そして、


真面まともに動かせるのは『ウチの社員』くらいですね……」


 と付け加えた。戦力としては心許無こころもとないが、数だけは多い。

 次はヤンカさんだ。


 彼女は『僕と視線が合う』とは思っていなかったようでおどろいていた。


「他の神殿の方達にも協力をお願いしたいのですが……」


 僕のその言葉に、


「申し訳ありません!」


 とヤンカさんは謝る。


「実は高位の神官達はお城の方へ出席していまして……」


 そのため、腕の立つ方は護衛として一緒に――と言いにくそうに答える。

 どうやら、戦力としては期待出来ないようだ。


(まぁ、最初から『協力するのは難しい』と思っていたけれど……)


貴女あなた所為せいではありませんよ」


 とセシリアさんが優しく彼女をなぐめた。


「では医療班として、ギルド側から要請を出してもらいましょう」


 そう言った僕の表情がすぐれない事にレイアは気付いたようで、


「どうしたの? なにか心配事……」


 と聞いてくる。


「この都市全体を守るには戦力が足りない――と思って」


 僕が素直に答えると、


「確かに……」


 とレイアもつぶやく。

 やはり、衛兵達の数も足りていないらしい。


 冒険者を辞めた年配の人達の就職先のような場所でもある。

 <魔物>モンスターとの戦闘は難しいだろう。


「オレたちがそれぞれの門を守ればいいだけだろ?」


 とはツルギ。

 この都市には東西南北にそれぞれ大きな門がある。


 勇者は三人――つまり、後の一人は僕だろうか?


「いや、それだと戦力を均等に分散する必要がある」


 敵が一つの門に集中した場合、対応が難しい――と僕は分析する。


「それに防衛は援軍が来る事が前提だ……」


 お城があの様子なら援軍も期待出来ないよ――僕の説明にツルギは、


「そっか……」


 と納得する。


「それに問題は『四天王』だ……」


 一緒に戦ったツルギなら分かるだろう。


「あんなレベルの敵が空を飛べるのであれば……」


 門を守る事、それ自体の意味がなくなる――と僕は答えた。

 街中に出現されれば、甚大じんだいな被害が出る。


 ただ、今回は師匠がいるため、『勝つ』だけなら簡単だ。


(でも、師匠には『あの役目』をお願いしないといけない……)


 僕の視線に気付いたのか、


「フンッ! 分かっておるのじゃ!」


 と師匠。


「あの『黒い魔素』をなんとかすればよいのじゃろ!」


 任せておくのじゃ!――と元気に答える。

 その割には、手足が震えていた。


 しかし、これは<ロリモン>である彼女にしか頼めない事だ。

 メルク達では、まだ荷が重い。


 今回の本当の問題は<魔族>ではない。

 『黒い魔素』をなんとかする事にある。


 この規模の都市では、人々の避難は間に合わないだろう。

 そのため、人々を守る都市の『結界』を維持したまま、勝利する必要があった。


(もし『結界』を壊されたのなら『黒い魔素』が都市を包み込むだろう……)


 だから僕は『覚悟』を決めなくてはいけない。


 ――人々を見捨てて<ロリモン>達を救うか?

 ――<ロリモン>達を犠牲にして人々を救うか?


 その二択だ。


『私、強くなったよ……』


 そんなメルクの言葉が、不意に僕の脳裏のうりに浮かぶ。


『お兄ちゃん、私も一緒に戦うよ!』


 彼女なら、きっとそう言ってくれるはずだ。


「作戦が決まったよ……」


 僕は静かにげるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る