第九章 勇者集結⁉ ラストバトルは温泉で?

第109話 防衛作戦(1)


「……」


 沈黙するハナツ。

 無言は僕も不安になるのでめてもらいたい。


 彼女はそんな僕の視線に気が付いたのか、


「ち、違うんです! これはあたしじゃなくて……」


 慌てて弁明する。僕は優しく彼女の肩をたたくと、


「分かっているよ……ハナツはそんな事しないよね?」


 落ち着かせるために声を掛けた。


「アスカ君……フヒヒッ♥」


 とハナツ。少し笑い方が気持ち悪いけど、落ち着いてくれたようだ。

 しかし――


本当ホントかよ?」


 と声を掛けてくる人物がいた。

 僕達が振り向くと、ツルギが腕を組んで立っていた。


 ハナツはすごく嫌そうな顔をして、僕の後ろに隠れる。

 そんな事はおかまいなしに、


「よっ! 久しぶりだな」


 彼は明るく話し掛けてくる。

 『ロリライブ』のためにトレビウスと一緒に戻ってきたのだろう。


 その様子だと修業の方は順調なようだ。


「ツルギもか……」


 僕は一旦、落ち込むと、


「<勇者>なのに、お城に行かなくて良かったの?」


 今となっては――行かなくて良かった――という結論になるだろう。


「いや、チビ達が歌って踊るんだろ?」


 おえらいさん方の相手をするより、こっちの方がいいや――とツルギは笑う。


(実に彼らしい……)


「それは同意です」


 とハナツ。フンッ!――と鼻息を荒くする。

 彼女の場合は、単に人が多い場所が苦手なだけだろう。


 ――この<勇者>達にも困ったモノだ。


「まぁ、それなら仕方ありませんね」


 とはラニスで、いつの間にかツルギの横に立っていた。


(お前もか『お姫様』……)


「大丈夫ですよ、式典にはお兄様が出席していますから」


 とは答えたモノの、今はそのお兄様の安否が不明だ。


(この国の『王子』なんだよね?)


「えっと、王子は大丈夫なのかな?」


 一応、ラニスが<姫>という事は内緒になっている。

 僕が独り言のように発すると、


「つくづく、爆発に巻き込まれるのが好きな奴だな!」


 ワッハッハ!――とツルギは笑う。


(別に『好きで巻き込まれている訳ではない』と思う……)


 そんな彼に対して、


「笑い事ではありません!」


 とラニス。心配そうな表情をすると、


「お兄様になにかあったら、わたくしに公務が……」


 と小声で心の声をらす。

 どうやら、心配しているのは別の事のようだ。


 ツルギとハナツには聞こえていないらしい。

 悪かったと思っているのか、反省したような態度を見せる。


「しかし、爆発に巻き込まれれば、全裸になる理由が出来るな!」


 とはヨロイ。


 ――いや、生死に関わる問題だよ!


 突然の登場だったが、僕はもうおどろかない。

 今日は旅人のような恰好をしている。


 ――会うたびに服の心配をしなければならないのか?


(それはなんだか嫌だな……)


 ヨロイの横にはオロオロとするヤンカさんがいた。

 どうやら無事、合流出来たようだ。


(良かった……)


 しかし、その表情は不安で一杯だった。


「セヴァール様は大丈夫でしょうか?」


 と例のイケメン神官の心配をしている。

 これが普通の反応だ。


 しかし、ツルギ達は「それ、誰だっけ?」みたいな顔をしていた。

 どうやら、記憶から抹消まっしょうされたらしい。


(魔法で生き返ったり出来る世界だしな……)


 僕は疲れるので、深く考えるのをめた。

 それよりも、例の貴族の屋敷で見付けた『証拠の品』と記憶が結び付く。


「確か、行方ゆくえが分からなくなっていた『魔石』があったよね?」


 僕の問いに、


「恐らくは……」


 とラニスはうなずく。

 『魔石』の一種で『魔力をたくわえ、やがて爆発する』という厄介やっかい代物しろものがあった。


 <冒険者ギルド>では加工され、道具アイテムとして販売されている。

 <魔物>モンスターへ投げつけ、一定の損傷ダメージを与える事が出来た。


 ――しかし、お城を爆破する程の威力はないはずだ。


 僕の考えを理解したのか、


「それこそ、何十人と<魔法使い>が必要になるでしょうね」


 とラニスは答える。僕は、


「人間の<魔法使い>だよね?」


 そうつぶやく。


(けれど<魔族>であるなら……)


 ――人数は少なくて済むはずだ。


 ラニスは――ハッ!――として目を見開いた。僕はうなずくと、


「どうやら<魔族>達の狙いは、式典に参加する<勇者>と……」


 この国の要人の暗殺だったみたいだね――推測する。ツルギは、


「<勇者>は全員、無事だったけどな!」


 そう言って笑った。


(一歩間違っていたら、殺されていたかも知れないのに……)


 ――いや、大物なのか?


 ツルギが呑気のんきに笑っている所へ、


「大変です! 先輩……」


 とウラッカが慌ててやってきた。

 そのまま――ばふっ!――僕の胸へと飛び込むと、


「お、お城が破壊されて――ひ、姫様と勇者様達が……」


 ううっ――と涙をこらえる。

 その後、僕の後ろで手を振るツルギ達に気が付く。


 ラニスに関しては気不味きまずそうだ。


「――っ!」


 ウラッカは思わず――姫様っ!――と声を上げそうになったのだろう。

 寸前のところで我慢する。そして、僕から離れると、


「<勇者>様! お仲間様も……ご無事だったのですね!」


 と微笑ほほえみ、目に浮かんでいた涙をぬぐう。

 次に彼女は僕を見詰めると、瞳をキラキラとさせる。


 そして何故なぜか、僕の両手をにぎると、


「このウラッカ、すべて理解しました!」


 すべては先輩の作戦ですね!――恍惚こうこつとした表情を浮かべる。


 ――なにやら盛大な勘違いを始めたようだ。

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