第108話 ヨージョ神殿(14)
「それではアスカ君をお借りしますね♥」
突然、右腕に大きくて柔らかいモノが――いや、違った。
セシリアさんが僕と腕を組んだ。
「待ってください!」
とウラッカ。
「あらあら、ワタシは『ロリライブ』の事でお話があるのですけど……」
穏やかだけれど、
「なら、わたくしが一緒でも問題ありませんよね♪」
ウラッカは笑顔で返答する。
二人はニコニコと笑みを浮かべながらも、火花を散らせていた。
(いったい、
身の危険を感じた僕は素早く、その場から離脱する。
【体術】と回避系の<スキル>を習得していて助かった。
(
「ああ……アスカ君⁉」「せ、先輩!」
二人が僕を呼び
「メルク達の様子を見て来るよ!」
そう言って急ぎ、その場を後にした。
「セシリアさんの
「ウラッカさんこそ……」
と二人は口を
彼女達の間で再び火花が散った。
(やはり、逃げて正解だったかな?)
僕は
途中、神官の一人と
「すみません」
僕が謝ると、
「あら?」
と聞き覚えのある声がした。ユーリアだ。
元々、神殿に仕えていた<巫女>という事もあり、すっかり
「ユーリアか……分からなかったよ」
僕の
「メルク様達の所に行くのですか?」
『ロリス教徒』のような話し方も板に付いている。
――それでいいのか?
と疑問に思う
(今日みたいに人の多い日は大人しくしていて欲しい所だけれど……)
「様子を見にね」
ユーリアは、
「大丈夫ですよ♪」
と
少し天然な
けれど、ここの暮らしにも
<魔族>という事で――神殿は苦手なのかな――と思った。
けれど、神殿などを苦手とするのは『黒い魔素』を好む<魔族>だけらしい。
彼女の居た<魔界>は<天界>と
<魔界>では、それぞれの階層での強者が<魔王>を名乗っている。
また『爵位』という強さを表すランクのようなモノもあるようだ。
そのため、普段は上位の者が下位の者を従わせる。
しかし今は、その
その原因が『黒い魔素』だという。
『黒い魔素』を吸収すると通常よりも魔力が強くなるらしい。
今まで弱かった<魔族>達が急に勢力を
(<魔物>達と同じ状態だな……)
現存の<魔王>達は『黒い魔素』を防ぐために結界を張っているらしい。
その
また<魔王>の庇護を受けられない<魔族>達は『黒い魔素』に
<魔界>は今、群雄割拠の時代となり、
その『黒い魔素』に
彼は父親から<魔王>の座を
そして<魔界>での覇権争いよりも、先に人間界への侵攻を開始したらしい。
――困ったモノだ。
(
<勇者>が三人も召喚されたという事は『それほどの危機』とも言える訳だ。
僕はユーリアと別れると、
「
とアリスの声がした。
「
(そんなモノは決めていないけど……)
ポカッ!――と頭を
「よく来たのじゃ!」
と師匠が出迎えてくれる。
中へ入れて
「お兄ちゃん!」
とメルクが嬉しそうな表情を浮かべた。
部屋の
(
制服タイプで色違いのモノだ。
「あら? そんなにわたくしに会いたかったのですか……」
――
「<コウモリ>の嘘つき……」
兄さんが来るまで
「そ、そんな事ありませんわ!」
慌てるルキフェにメルク達はクスクスと笑った。
彼女は顔を
僕はその場で
ちょっと血色が悪いのかも知れない。
――<ヴァンパイア>だからだろうか?
その手を温めるように
「
成功させようとしている
「……」
ルキフェは
「べ、別に
と強がる。ルキフェは続けて、
「ただ皆さんが頼りないので、わたくしがリードして差し上げようと思っていただけですわ……」
オーホッホッホ!――と高笑いをする。
(どうやら、いつものルキフェに戻ったようだ……)
僕は安心したので、
「客席から
そう
――後は師匠が
(アレで面倒見はいいからな……)
† † †
僕が一旦、外に出るとヤンカさんの姿を見掛けた。
『彼女がいる』という事はヨロイを探しているのだろう。
(今日は『
――大丈夫だろうか?
見なかった事にしたい所だけれど――僕は
(きっと、こういう所が『お人好し』と言われる
彼女の方へ、トボトボと歩き始めた時だった。
「アスカ君♥」
と耳元で
突然の事に僕は声を上げて、飛び
振り向くとそこには、
「会いたかったです♪」
とハナツの姿があった。
――<勇者>である彼女がいったい、どうして
(ヨロイの事も気になるけれど……)
「お城に行かなくて良かったの?」
僕の質問に、
「あんなモノは『リア充』の集まりです!」
『リア充』爆発しろ!――とハナツ。
彼女が言うと
――覚えた言葉を使いたかっただけだと思いたい。
「どうせ『あたし』への告白なんて
フッ――と息を
彼女の過去に
(この分だとヨロイもサボりだろう……)
僕が視線を戻すと、
――まぁ、大丈夫だろう。
「じゃあ、ライブを観て行く?」
僕の質問に、
「そ、そうですね! アスカ君とデートです……フヒヒッ♥」
とハナツは嬉しそうにする。
「あたしは今、幸せです!」
そう言って、彼女は腕を組んで来た。
(今日はやけに腕を組まれる気がする……)
「あたしの幸せを邪魔するお城の人達なんて皆、爆発してしまえば――」
ハナツがそう言い掛けた時だった。
ドオォォォーンッ!――と遠くの方で大きな音がする。
一瞬だけど、身体を揺らすような空気の振動と地響きが襲い掛かる。
人々が慌てる中、僕は音のした方角へと視線を向けた。
――煙が上がっている。
(もしかして……)
「大変だ! お城から煙が……」
と人々が騒ぎ始める。
僕は先程から無言でいるハナツを見詰めるのだった。
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