第77話 三日月村(3)


 <ブラックホーンラビット>を倒した。

 しかし、これで終わった訳ではない。


 村に入り込んだ<一角いっかくウサギ>達を退治する必要がある。


(その後は、へいも直さないとな……)


 そちらは<錬金術師>の<スキル>があるから問題ないだろう。


(使い方が間違っている気もするけど……)


 本来は『回復薬ポーション』などを作製するための<スキル>だ。


 ――いや、考えるの後だ!


(さっさと<魔物>モンスターおびき寄せよう……)


 ――村の中央で<スキル>を使えば、一網打尽いちもうだじんに出来るだろうか?


 念のため<ブラックホーンラビット>の死骸しがいは回収しておこう。

 このまま、メルク達を連れて行けば、戦力的には問題ないはずだ。


 ――いや、待てよ⁉


 僕の<スキル>では村の家畜達も呼び出してしまう可能性がある。


(それに今は――レイアが先か……)


怪我けがはない?」


 僕がレイアに確認すると、


「ええ、大丈夫よ……」


 と返される。確かに怪我けがをした様子はない。

 少し疲れている――といった所だろうか?


 あの<ブラックホーンラビット>を相手に互角とは大したモノだ。

 想像していたよりも、彼女は強いらしい。


(男性が寄り付かない理由が分かった気がする……)


 僕は顔を近づけると、じっとレイアを見詰めた。

 思い詰めた様子はないみたいだ。心配事は解決したらしい。


 この村に来る前は、少し様子が変だった。


(どうやら、弟は無事だったみたいだ――良かった……)


 僕は安堵あんどの息をく。

 恐らく、後ろの教会の中に弟や親戚が隠れているのだろう。


 この村の建物の中では、教会が一番立派な造りになっている。

 緊急時の『避難場所』という訳だ。


「念のため、回復しておくよ」


 僕は彼女の手をにぎると回復魔法である【ファーストエイド】を使用した。

 これで少しは体力が回復するはずだ。


「顔が近い……いえ、なんでもないわ」


 ありがとう――とレイアにお礼を言われる。


(いつもより、反応が可愛い……)


 どういたしまして――と僕が微笑ほほえむと、


「お兄ちゃん!」


 メルクが突然、僕に抱き付いてきた。

 相変わらず、謎の跳躍ジャンプ力だ。


 僕はメルクを受け止めると、そのまま抱き締める。

 そして、頭をでた。


「無事で良かった……」


 心配したよ――そう言ってひたい同士をくっつける。

 相変わらず『プルン』とした柔らかい感触。ヒンヤリとした体温が心地好い。


 うにゃあ♥――とメルク。


「メルクだけ、イチャイチャしてずるい」


 とはイルミナだ。

 戻ってきた――という事は、どうやら近くに<魔物>モンスターは居なかったようだ。


「そうだね……ゴメン」


 僕は素直にイルミナに謝ると、メルクを下ろした。

 彼女は表情の変化がとぼしいので、感情が読みにくい。


 かまってあげたい所だけれど、あまりゆっくりしていられない。

 一度、切り替えよう。無事を喜ぶのはすべてが終わってからだ。


<魔物>モンスターを一掃するよ!」


 僕は声を上げた。レイアに対しては、


「あ、レイアはここに居て……」


 弟のそばに居てあげた方がいいよ――と告げる。

 ガネットを背嚢リュックに入れると、


「イルミナ! 村の中央まで案内してくれ……」


 と頼んだ。彼女は何処どこか納得しない様子だったけれど、


「仕方がない……こっちよ」


 と案内してくれた。後できちんと機嫌を取る必要がありそうだ。

 途中<一角いっかくウサギ>に遭遇そうぐうしたけれど、メルクとイルミナの敵ではない。


 ほぼ瞬殺だ。ただ、村の中に『魔素』をめる訳にはいかない。

 僕は死骸しがいを回収する。


 村の中央広場に着くと早速<スキル>【コール・ザ・アニマル】を使用する。

 動物を呼び寄せる<スキル>だ。


(家畜達も来てしまうだろうけど……)


 ――今は<魔物>モンスターの対処が最優先だ!


 メルク達にも、そのむねを説明し、戦闘準備をさせる。

 しばらく待つと<一角いっかくウサギ>達が集まってくる。


 その他にも、馬や牛が現れた。ただ、


「このまま蹴散けちらすでち! 黒い仕立屋シュヴァルツシュナイダー!」


 とルキフェ。ノリノリだ。馬の背中に、何故なぜかアリスと一緒に乗っていた。

 合流出来たのは嬉しいけれど、少し恥ずかしい。


(人様の家畜に、勝手に名前を付けるんじゃありません!)


「おおっ! 早いぞ、シュバシュバ!」


 とはアリス。興奮していて、今にも振り落とされそうだ。


(言えてなし、危ないよ……)


 気を取り直して、僕はお願いする。


「皆、家畜を守りながら<一角いっかくウサギ>を倒して――」


 結構、無茶な事を言ってしまった。

 けれど、レベルの上がった<ロリモン>達は、なんなく対処たいしょしてくれる。


「仕方のないあるじでち……」


「兄さんは人が良いから――」


 ルキフェとイルミナがなにやら話している。

 確かに、ギルドの正式な依頼ではないし、ここまで対処する理由もない。


(けれど、この村を放っておく訳にも行かないだろう……)



 †   †    †



 やがて、戦闘も終了する。

 家畜達は迎えが来るまで、ルキフェ達に面倒を見てもらった。


 僕は<魔物>モンスター死骸しがいを回収すると解体を行う。

 ガネットに穴を掘ってもらい、不要な残骸をその穴で燃やす。


(後は――村の外の<魔物>モンスターも片付けないと……)


 ――いや、メルク達を休憩させよう。


 想定した以上に消耗してしまった。

 レイアが村人を連れてきてくれたので、メルク達の事を頼んだ。


(お弁当を渡したので、彼女なら上手く世話をしてくれるだろう……)


 家畜達については、持ち主に返す。

 僕が謝ると、逆にお礼を言われてしまった。


 取りえず、村長に挨拶あいさつをして<魔物>モンスターの危機が去った事を説明する。


「災難でしたね――怪我けが人がいるのなら治療しますよ?」


 僕が申し出ると、村人達は顔を見合わせる。

 どうやら、怪我けがをした村人はいないようだ。


 <魔物>モンスターと戦った大人達がかすり傷を負った程度らしい。

 死者は居ないとの事だったので、安心して良さそうだ。


 僕は回復魔法で簡単な治療を済ませる。


「では……疲れている所、悪いのですが――村の被害状況を確認しましょう」


 僕はそう言って、村人の手を借りる。

 村を見て回ると同時に【魔物感知】を使用した。


 <魔物>モンスターが隠れていない事を確認する。

 建物については、損傷した個所は少なかったらしい。


(これなら、壊れたへいを直すだけで良さそうだ……)


「僕は村の外の<魔物>モンスターを片付けてきますね……」


 と告げる。村人は遠慮しているようだったので、


「皆さんは早く戻って、家族に顔を見せた方がいい」


 安心させてあげてください――そう言って僕は一人、村を出た。


(早く、村周辺の<魔物>モンスター死骸しがいを片付けよう……)


 新たに<魔物>モンスターが現れても困る。

 村を出る途中で、ルキフェとイルミナと合流した。


 文字通り――飛んできた――といった所だ。


「一人じゃ、危ないでち……」


「不用心だよ、兄さん……」


 どうやら、心配させてしまったらしい。

 僕は二人の頭をでる。


「二人共、ありがとう」


 とお礼を言う。すると、


ずるいでち」


「兄さん、ずるい……」


 そんな言葉が返ってきた。

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