第76話 三日月村(2)


 ――さて、イルミナとも合流出来た。


(メルクを探すべきなのだろうけど……)


 村には<魔物>モンスター雪崩なだれ込んでいるようだ。

 僕は先にそいつらを退治するため、杖をかかげげる。


 そして<魔物>モンスターを呼び寄せる<スキル>【コール・ザ・アニマル】を使用しようとしたのだけれど――


「待って! 兄さん……」


 とイルミナに止められてしまった。

 彼女の話によると<ブラックホーンラビット>が、まだ三羽も居るらしい。


 僕はうんざりとした表情を浮かべる。


流石さすがに、その数はきびしい……)


 また、上位種の制御コントロール下にある場合、僕の<スキル>の効果は不明だ。

 下手をするとMPの無駄遣いになり兼ねない。


 更にイルミナは、


「後、メルクなんだけれど――」


 と教えてくれる。どうやら、メルクがレイア達と一緒に戦っているらしい。

 急いで助けに行く必要がある。


 けれど、その前に<ブラックホーンラビット>の死骸しがいを回収しておくべきだろう。

 放置していると別の<魔物>モンスターに食べられる可能性がある。


(これ以上、強い敵が出て来られると厄介だ……)


 アリスには悪いけれど<一角いっかくウサギ>の死骸しがいについては一旦、放置だ。

 流石さすがにそこまでの時間はない。


 僕達はイルミナの案内で、村の中を進む。

 至る所で<一角いっかくウサギ>の姿を見掛ける。


(相手をしたい所だけれど……)


 司令塔ボスである<ブラックホーンラビット>を退治するのが先だ。

 人々は家の中に隠れているようなので、取りえずは安心していいだろう。


 しかし、家畜を守って戦っている人達を見掛けた。


(アレは馬車のおじさん?)


 見捨てる訳には行かない。

 僕はルキフェとアリスに、彼らの救助を頼んだ。


「仕方ないでちねぇ……」


 ルキフェは肩をすくめると――やれやれ――といった仕草をする。しかし、内心では<ブラックホーンラビット>と戦わなくて済む事に安堵あんどしているのだろう。


 一方、アリスの方は、


「オレに任せろ!」


 と言って、駆け出して行ってしまった。

 あまり考えては無さそうだけれど、レベルは上がっている。


 二人なら問題ない《はず》筈だ。


 ――それよりも気になる事がある。


(これって――<暴れイノシシ>の足跡だよな……)


 察するに<ブラックホーンラビット>が<暴れイノシシ>を利用して、村を囲う塀を壊したのだろう。


(だとすると、中々に頭がいい……)


 <灰色オオカミ>も<一角いっかくウサギ>をえさにして、おびせたと考えるべきだ。

 そこを横から――ブスリッ!――とやれば、食料を確保ゲット出来る。


 そうやって、強くなると同時に仲間を増やしていったのだろう。

 つまり<魔物>モンスターの数が減っていたのは<ジャイアントボア>が原因ではない。


 <ブラックホーンラビット>が犯人だった――という事になる。


(そして、その黒幕は<魔族>だろう……)


 『進化』させた個体をいくつか野に放った――と考えるべきだ。

 僕は溜息をく。


(これは後で<冒険者ギルド>に報告しなければいけないな……)


 そうなると、アリスの件も説明が付く。

 彼女は変異種だ。


 そのため、制御コントロール下に置けなったのだろう。

 命令を聞かなかったために、仲間から攻撃されていた可能性が高い。


「思ったよりも、厄介な事になったな……」


 走りながら、僕はそんな事をつぶやいた。


「兄さん、この先……」


 と僕の前を飛んで案内してくれていたイルミナ。

 一旦、飛行をめ着地する。


 そして、建物の影に隠れると、こっそりと様子をうかがった。どうやら、教会の前で、メルクとレイアが<ブラックホーンラビット>を相手にしているようだ。


 <スキル>の効果が切れているのだろう。

 メルクの大きさは元に戻っている。


「兄さん、一緒に戦う?」


 イルミナの問いに、


「いや、真っ向勝負は不利だ! ガネットにお願いしよう……」


 そう言って、僕はガネットを背嚢リュックから出すと、


「頼めるかな?」


 と聞いてみる。

 あの素早さスピード相手に突っ込んで行くのは自殺行為に等しい。


 ここはガネットの能力に頼るのがいいだろう。


「ご主人のお役に立てるのなら……頑張ります~」


 なんとも気の抜けた返事だけれど、今は頼もしい。

 <スキル>で地面へともぐる。


 しばらくすると――ポコンッ!――と地面に穴が開いた。

 ご丁寧に<ブラックホーンラビット>が一羽、また一羽と落ちて行く。


 最後の一羽はレイアが槍で突き落とした。


「メルク! 【ウォータープリズン】だ……」


 僕が顔を出すと――お兄ちゃん!――と嬉しそうな声を発する。

 一瞬にして、花が咲くような笑顔になった。


 僕はそれを見て、気が緩みそうになる。

 けれど、そういう訳にも行かない。


 自力でい上がろうと頭を出した<ブラックホーンラビット>に、


「【ウィンドカッター】!」


 そうさけんで風の刃をお見舞いする。

 キシャーッ!――と悲鳴を上げ、再び穴に落ちて行く。


 時間稼ぎは出来たようだ。メルクの【ウォータープリズン】が炸裂さくれつする。

 あっという間に穴は水で満たされた。


「えっと、ガネットは⁉」


 僕が慌てて周囲を確認すると、


「呼びました~」


 ポコンッ!――と地面から顔を出す。

 僕は早速、彼女を抱きかかえると、髪についた土を払い落とした。


「へぇ、ガネットが……お手柄ね」


 とはイルミナ。飛翔すると周囲を見回す。

 上空から敵がいないか探してくれているようだ。


(そうだ! <暴れイノシシ>も居たんだ……)


 僕は【魔物感知】を使用する。しかし、反応がない。よく見ると内臓をえぐられ、動かなくなった<イノシシ>の死骸しがいいくつか転がっていた。


 どうやら、すでとどめを刺されていたらしい。



  アスカのレベルが1上がりました。

  メルクのレベルが1上がりました。


  ルキフェのレベルが2上がりました。

  イルミナのレベルが2上がりました。


  アリスのレベルが2上がりました。

  ガネットのレベルが2上がりました。



 <メッセージウィンドウ>が表示される。

 メルクの方もけりが付いたようだ。


(今回はあまり、後味の良くない勝利だったな……)

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