第66話 冒険者ギルド(9)


 召喚された<勇者>が旅の仲間を選ぶ――それが『選定式』だ。

 その日、<冒険者ギルド>や神殿、貴族などが推薦する猛者もさ達が集う。


 また『ロリス教徒』は少数だけれど、実力者が多い。

 そのため――彼らがその場に居ないのは可笑おかしい――とされるだろう。


勿論もちろん、評判がいいとは言えないけれど……)


 少なくとも<魔物>モンスターの被害が最初におよぶのは国民だ。

 有事の際、駆り出される兵士やその家族もそうだろう。


 例え、人格に問題あったとしても<勇者>の仲間に実力者を望む声は大きい。

 しかし、『ロリス教徒』を召喚する事に抵抗がある連中が多いのも事実だ。


 ましてや<勇者>が『ロリス教徒』を仲間に選んでしまった場合、<ロリス教>の勢力が再び拡大してしまう。


(僕としては問題ない……)


 けれど――その状況を阻止そししたい――と考える権力者は多いらしい。

 国民を守る事よりも、手に入れた利権を守る事の方が大事なのだろう。


 また『ロリス教徒』に――政治への介入をして欲しくない――と考える勢力も一定数、存在する事が予想される。


(今の<ロリス教>には敵が多い……)


 一方、実力のある冒険者を推薦する立場なのが<冒険者ギルド>だ。

 <ロリス教>と権力者の間で板挟みとなっている状態なのは、僕でも推測出来る。


 『ロリスⅩⅢサーティーン』が存在する以上、<冒険者ギルド>は彼らの意向にしたがう。

 もし、下手へたを打ってしまった場合、王国側との間で戦いが起こる可能性もある。 


(マルガレーテさんが僕に何処どこまで期待したのかは知らないけれど……)


 ――頼まれた以上はなにかしなければいけない。


 現状では<ロリス教>を説得する事が一番危険リスクが少ない方法だろう。

 このまま『勇者召喚』の日が来てしまえば、どうなるのだろうか?


 おそらく、怒った<ロリス教>は国と決別してしまうだろう。

 更に国は、民からの信頼も失う可能性がある。


 最悪の場合、<ロリス教>を邪教とされ、宗教間による戦争も考慮すべきだ。


(ゲームだと、そういう展開だったしな……)


 当然、今は人間同士でそんな事をしている場合ではない。


 ――そこで<ロリライブ>である。


 多くの『ロリス教徒』は<勇者>の仲間になるよりも<ロリライブ>への参加を優先するだろう。つまり――


 ▼ <冒険者ギルド>としては公平に実力者を推薦した。


 ▼ 王国としては、『ロリス教徒』を召喚した。


 ▼ 『ロリス教徒』としては<ロリライブ>を優先した。


 ▼ 権力者としては、『ロリス教徒』は式典に来なかった。


 国民達には悪いけど、それぞれ――納得の行く結果になる――という訳だ。


 ――QED証明終了。


流石さすがはアスカ様――いえ、正直、見くびっていました……」


 これで、この国は救われました――とマルガレーテさんは涙する。

 意味を理解出来ていないのか、ウラッカは頭に疑問符クエスチョンマークを浮かべていた。


「ただ、メルク達を強くする事が成功のための最低条件ですから……」


 このまま、ウラッカに担当をお願いしてもいいかな?――僕が質問すると、


「この者は命令とはいえ、アスカ様をおとしいれようとした者ですよ……」


 縁を切った方がよろしいのでは?――マルガレーテさんが助言をしてくれる。

 この言葉に反応したのは、僕ではなくウラッカの方だ。


 ひぃ~っ!――と声を上げる。


「そ、そんな事しませんよ!」


 ウラッカはおびえる。彼女にその気がなくても、現状で僕や<ロリモン>達の情報が国の上層部に方に届くのは好ましくない。


 僕は苦笑すると、


「そうだね――誰もだまされてれてないよ」


 僕は独り言をつぶやいただけさ――そう言って、メルクをき上げた。

 プルン!――とれる彼女の半透明体スライムボディいやされる。


「お人好ちでち……」「兄さん、心配」


 そう言って僕を見上げるのは、ルキフェとイルミナだ。

 僕は――お願いしてもいいかな?――と再びウラッカに確認する。


 状況によっては彼女の情報から、メルク達を誘拐するなど、なにかしらの強硬手段に出てくる可能性も否定出来ない。


 けれど、彼女を通して『王族と関係コネクションきずく』というのも手だろう。

 彼女としても『ダメでした』と帰る訳にはいかないはずだ。


 しかし、ウラッカを制御コントロールするのは難しいだろう。


(なら、彼女の上司である『姫』と仲良くするのは、手段としては悪くない……)


「はい、任せてください!」


 とウラッカ。ドンッ!――と胸をたたくと、


「ギルド職員としての教育も受けていますので、大丈夫です☆」


 ペロリと舌を出し、親指を立てると、調子のいい笑顔を浮かべた。

 正体がバレてしまった以上『演技を続ける必要は無くなった』と判断したようだ。


 どうやらメルク達にも、こちらの方が、受けがいいらしい。

 警戒が少しやわらいだ気がする。


真面目まじめなマルガレーテさんとしては、頭が痛いようだけど……)


 額を手で押さえ、ゆっくりと首を振る彼女。

 取りえず、この場は僕の顔を立ててくれるらしい。


 ウラッカに対して、お小言こごとは無いようだ。

 その代わり――しっかりと対応をお願いします――と言い残し、部屋を出た。


 おそらく、ギルド長のもとへ報告に行ったのだろう。

 緊張していたのか――ふぅーっ!――と息をくウラッカ。


 そでで額の汗をぬぐ仕草しぐさをすると、


「あっ! ちょっと待っていてください……」


 なにやら通信機のようなモノで連絡を取る。

 するとぐに、お茶とお菓子が運ばれてきた。


 どうやらウラッカが連絡するよりも先に、マルガレーテさんが手配してくれていたようだ。メルク達がお菓子に夢中になっている間に、僕は予定通り報告を行う。


 <ジャイアントボア>と遭遇そうぐうした際の状況と戦闘の経緯を簡単に話す。

 とは言っても、ルイスからも報告が上がっていたようだ。


 話の辻褄つじつまが合っている事を確認するため、ウラッカの質問に答えるだけで済む。

 その後、ウラッカからは謝罪しゃざいの言葉を受けた。


 ギルドの認識としては『初心者である冒険者に間違った情報を与え、危険な仕事をさせてしまった』という事らしい。


 そのおびとして、一緒に受けた『調査』と『採取』の依頼は『達成した事にしてくれる』という。


 更に報酬を多めに出してくれた。

 想定していた以上に<ジャイアントボア>は危険視されていたようだ。


(<プランダークロウ>の時の対応とは大違いだ……)


 確かにゲームだと、そこまで強い<魔物>モンスターは、この大陸では出現しない。


(やはり――あの森でなにかが起こっている――と考えるべきだろう……)

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