第38話 師匠の家(9)


 僕はイルミナの髪を洗っていた。

 光の当たり方によっては、白にも黒にも見える不思議な髪だ。


 ルキフェと違って長く、少しクセがある。

 しっかりと洗髪剤シャンプーを泡立てて、丁寧ていねいに洗う。


(翼も同じように洗えばいいのかな?)


 ずは洗髪剤シャンプーを洗い流した後、髪にかわいたタオルをく。

 次に身体を洗ったのだけれど、イルミナもルキフェ同様、肌の色が白かった。


(<ロリモン>になった<魔物>モンスターはこうなのかな?)


 ルキフェと違って、大人しいので助かるけれど、


「あんっ♥」


 とイルミナは嬌声きょうせいを上げた。

 変な声を出さないでくれ――と注意をすると、


「エッチ……」


 イルミナはつぶやく。


なんとも人聞きの悪い……)


 僕は――エッチではありません! スケベです――と返しておいた。

 面白かったのか、彼女は――クスクス――と笑う。


(予想はしていたけれど……)


 やはり、イルミナはあつかにくい。

 最後に洗髪剤シャンプーで、翼を丁寧ていねいに洗った。


「痛くない?」


 僕の質問に、


くすぐったい……」


 とイルミナ。メルクとルキフェは、お風呂で大人しくしているようだ。

 洗い残しがない事を確認して、洗髪剤シャンプーを洗い流す。


 今度はメルクとルキフェを湯船から出して、替わりにイルミナを入浴させる。

 彼女もしっかりしているようだけれど、一人にしておくのも心配だ。


 さっさと脱衣所に行って、二人の身体をき、手早く着替えさせないといけない。


(中々に重労働だな……)


 ――ゆっくりするひまがない!


 そんな事を考えていると、


 ――バタンッ!


 音がして、ドアが勢いよく開いた。

 涼しい空気が流れる。


 そこには当然のように、裸の美少女が立っていた。


(どうやら、隠す気はまったく無いみたいだ……)


 メルクとルキフェが注視する中、


「待たせたのう! わしも入るぞ……」


 そう言って、師匠が乱入してきた。



 ♨   ♨   ♨



 キキーッ!――とルキフェ。


「誰が下等な人間のいう事など、聞くものでちかっ!」


 調子に乗って、食卓テーブルの上に仁王立ちするとなにやら宣言する。

 僕はイルミナの髪をかわかしていた。


 どうやら、ルキフェは<ドライヤー>が好きではないらしい。


「兄さん、あの五月蠅うるさいのを黙らせようか?」


 とはイルミナ。なにを期待しているのだろうか?

 僕に命令して欲しそうに、顔を上げる。


(ルキフェとは違う意味で困っただな……)


 メルクが素直過ぎるのだろう。この二人には手を焼きそうだ。

 僕が食卓テーブルから降りるように注意しようとすると、


 ――ズンッ!


 と強力な威圧プレッシャーを感じる。

 当然、その発生源は師匠だ。一斉に、その場の全員が静まり返った。


貴様きさま、降りろ……」


 バスタオルで髪をきながら、師匠が一睨ひとにらみすると、


「な、な、でちか……お前は――」


 とルキフェ。師匠を指差し、威勢はいいのだけれど、その顔は真っ青だ。

 足をガクガクさせ、今にもチビりそうになっている。


(あれ……既視感デジャヴュ?)


 僕とメルクは首をかしげる。


「その場所は、これから食事をする場所じゃ……」


 と師匠。僕は<ドライヤー>をめ、イルミナの髪をブラシで整える。


「夕飯、<コウモリ>、丸焼き♪」


 イルミナが変な歌を口遊くちずさむ。

 途端とたん、ルキフェが急いで食卓テーブルから降りる。


「クッ! 今日のところは、このくらいにちておいてやるでち……」


 ――ドンッ!


 痛たいでちっ!――着地に失敗し尻餅しりもちくも、慌てて僕の後ろに隠れた。

 そんなルキフェの様子を見て、イルミナは笑ったが、


貴様きさまもじゃ! <カラス>――」


 師匠に言われ――ビクッ!――とイルミナの肩が上がる。

 緊張で身体をこわばらせた。


此奴こやつわしのじゃ! あまり調子に乗っていると――」


 その羽、すべてむしるぞ!――師匠が釘をす。


(本気では無い――と思いたい所だけど……)


 余程よほど怖かったのか、イルミナもルキフェ同様、僕の背中に隠れた。

 その点、動じる事の無いメルクは大物なのかも知れない。


「大丈夫だよ、師匠は――ルナお姉ちゃんは――本当はすごく優しいんだ……」


 僕はルキフェとイルミナの頭をでた。


「フンッ!」


 と師匠。そっぽを向く。


(上下関係を明確にさせた――という所かな?)


 やはり<ロリモン>達のあつかいにはれているようだ。


(以前は師匠にも、仲間が居たのかな?)


「次は師匠の番だけど……」


 イルミナが居なくなり、場所が空いた。

 なので師匠を呼ぼうと思ったのだけれど――


「まず、服を着ようか?」


 丸裸の少女にそう告げると、


「フフンッ♪ わしのナイスバディにメロメロという訳じゃな!」


 見たか小娘ども、これが大人の色気というモノじゃ!――と師匠。

 どう反応すればいいのか、僕には分からない。取りえず、


風邪かぜ引くよ」


 と忠告したのだけれど、


「問題ないのじゃ!」


 師匠はそう言って、僕の前に腰を掛ける。

 僕は鼻から息をくと<ドライヤー>を使った。


 ブラシで整えつつ、髪にボリュームを出す。


「そう言えば師匠……」


なんじゃ?」


「今日はどうしてたの?」


 そんな僕の質問に――秘密じゃ――と師匠は答える。

 師匠いわく――秘密は女の装飾品アクセサリー――との事だ。


(なるほど! 分からん……)


 僕はそれ以上、追及する事はせず、別の質問をした。


「メルク達の服だけど――師匠、なにか当てはある?」


 ワンピースのメルクはかく、ルキフェとイルミナは如何どうにかしなけばならない。

 師匠もそれは理解しているのか、


「仕方ないのう……」


 と一言告げた後、


「気は進まんが、セシリアに相談するしかあるまい……」


 そうつぶやいた。僕は『ヨージョ神殿』の巨乳神官を思い出す。


(教育上、良くなさそうだけれど……)


 師匠同様、僕も行きたくはない。

 けれど<ロリモン>達に関する事なら、彼女は頼りになるだろう。


 <ロリス教>にルキフェとイルミナを紹介する必要もある。


「そうだね……明日、僕が連れて行くよ」


 <冒険者ギルド>への報告もあるので、どの道、街へは行く予定だった。

 師匠の髪をかわかすと、次は夕食だ。


 僕はその前に、風呂の残り湯を使って、洗濯の準備をする。

 また、今日使った道具の手入れをしなければならない。


ずはる事の優先順位を決めよう……)

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