第27話 勇者(4)


なんだろう? この感じ……)


 学校でお弁当を忘れて、母親が届けに来てくれた。

 そんな感じに似ているのかも知れない。


(いや、経験はないけれど……)


「まったく……おぬしなにをやっとるんじゃ――」


 と師匠。返す言葉もない。

 でも、師匠の恰好に対してなら、少しばかり言ってもいいだろう。


 今の師匠の髪型はツインテールで、やったのはきっとセシリアさんだ。

 更に服は学制服のような形状をしている。


(だけど、これって……)


 ――完全にアイドル衣装だ!


 この世界に召喚されたという先人せんじん達が持ち込んだ文化だろうか?


「師匠、その恰好――似合ってるね」


 僕の台詞セリフに、


「エヘヘ♥ そ、そうか?……照れるのじゃ――ってバカもん!」


 何故なぜか怒られた。

 納得はいかないけれど、そのり取りが今は安心する。


 金属性の格子がなければ、彼女の頭をでていたところだ。

 僕は手を伸ばし、なんとか師匠のほほに触れると、


「ゴメンね……師匠はいつも可愛かわいいよね?」


 素直に僕は謝る。

 すると彼女は――カーッ!――と顔を真っ赤にした。


 めたつもりだったのだけれど、


「お、おぬし! な、何故なぜいつも……わしずかしくなるような台詞セリフばかり……」


 そう言って、師匠は顔を両手でおおうと――イヤン、イヤン!――首を左右に振った。ツインテールが勢いよくれる。


(やっぱり可愛い……)


「ううっ!」


 師匠はうなると――ピタリ――と動きをめた。

 そしてなにを思ったのか、こぶしを振り上げる。すると、


「フンッ! 待っていろ――今、このおりたたき壊す」


 などと物騒な事を言い出した。

 僕は――待つのは師匠の方だよ!――と声を上げる。


 ほぼ同時に、そんな師匠の背後に回り込み、羽交はがめにする人物が居た。

 お姉さんだ。僕は師匠の暴挙がめられた事に胸をで下ろす。


「コラッ! 放すのじゃ……」


 と師匠。お姉さんは、


「今、開けますから――壊さないでください!」


 と懇願こんがんする。僕も一緒に、


「師匠、一旦落ち着いて……」


 と説得した。


「ほら、可愛かわいい衣装がよごれるよ」


 そんな僕の言葉に――ピクッ――と師匠は反応する。

 彼女は少し考えた後、


「分かったのじゃ……」


 と大人しくなった。お姉さんは師匠を放すと、鍵を取り出す。

 そして、おりを開けてくれる。


「アスカ君、出ていいわよ」


 と言われたので、僕は素直におりから出た。

 すると、さも当然のように、


「いやぁ、良かった――これで自由だ」


「まったくだな……えらい目にった」


 そんな事を言って、ツルギとヨロイも僕の後に続く。

 だけど――


 ――ガシャン!


 再びおりが閉まり、鍵が掛けられる。


貴方あなた達はダメよ――」


 と笑顔でお姉さん(ただし、目は笑っていない)。

 そ、そんなぁ~!――といった表情の二人。


「待ってください」


 と僕。おりの近くに来ていたツルギに【ファーストエイド】を使用する。

 休息出来たお陰で――MPが少し回復していた――というのも理由だ。


(このくらいなら、使っても問題ないだろう……)


 ツルギのれていた顔が、見る見るうちに元へと戻る。

 このお人好しめが!――と師匠。


「どう、痛くない?」


 僕の質問に、


「ああ、サンキュー!」


 と顔を確認するように触りならがら、ツルギが答える。

 一方――早くするのじゃ!――と師匠がかす。


(どうやら、師匠はあまり人間が好きではないらしい……)


 少し気不味きまずかったけれど――じゃ、またね――と僕は手を振る。

 二人共――仕方ない――と思ったのか、


『またな!』


 と言ってくれた。僕は師匠に手を引かれ、その場を後にする。



 †   †   †



「おにーたん!」


 とメルク。僕を見付けて――テトテト――とって来る。

 そして、勢いよく跳躍ジャンプした。


(相変わらず、謎の跳躍ジャンプ力だな……)


 ――ぷよん!


 はずむメルク。中々の衝撃だ。

 僕はそれをなんとか受けめた。


「ゴメンな、一人にして……」


 僕が謝ると、


「メルクちゃん、良い子でしたよ」


 とお姉さん。彼女の名前は『レイア』というらしい。

 彼女がメルクの面倒を看てくれていたようだ。


 そればかりか、メルクに服を用意してくれていた。

 真っ白なワンピース。


 僕は抱きついているメルクの頭をでると同時に――似合ってるね――とめる。

 そして、レイアさんにもお礼を言って、頭を下げた。


「いえいえ、次からは気を付けてください!」


 メルクちゃん、良かったね――そう言って、彼女はメルクに微笑ほほんだ。

 その表情に、僕は不覚にも――ドキリ――としてしまう。


 僕達<ヘンタイ>に向けられていたモノとは、まるで違ったからだ。

 きっと今のが、彼女本来の笑顔なのだろう。


 短くカットした茶色ショコラブラウンの髪に翡翠ひすい色の瞳。

 今は鎧を外しており、その制服姿は――男装の麗人――といった風体だ。


 女性のファンがいても、可笑おかしくはない。

 そんな僕の様子に気が付いたのだろうか?


 コホンッ――と師匠がわざとらしくせきをする。僕は、


勿論もちろん、師匠の恰好も可愛いよ」


 と微笑ほほえんだ。


「そ、そうか?」


 師匠はそう言って、その場で――クルリ――とターンを決める。

 その姿は、まさにアイドルだ。


「もしかして、それで歌ったり、踊ったりするの?」


 多分、それが――<ロリス教>の活動なのだろう――と僕は推測していた。


「良く分かったのう……」


 と師匠は目を丸くする。僕は――まぁね――と答えた。

 どうやら彼女は『ロリス教徒』にとって、アイドルそのモノのようだ。

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