第111話 指し直し局①

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


 パチリ、パチリと、休憩スペースに穏やかな駒音が響く。しかし、僕の心は穏やかではない。ざわざわとする心は、もう抑えようがなかった。


「師匠……今日、師匠と同じ研究室の人から聞いたんですけど……えっと……」


 将棋が始まって、数十手後。僕は口を開いた。


 僕が師匠と同じ大学に入学してから半年。大学内の知り合いもまあまあ増えてきた。その知り合いの中には、師匠と同じ研究室の人が何人かいる。これまで、授業がない時間、師匠に会いたくて研究室に訪れたことが何度もあり、その結果できた知り合いだ。


 なかなか話を切り出せない僕を見て、師匠は何かを悟ったのだろうか。とても真剣な表情になった。


「あの……」


「…………」


 師匠は、僕の言葉を催促しようとはしなかった。ただ黙って、僕の方をじっと見つめていた。


 そんな師匠に感謝しながら、深呼吸を一つ。


 そして僕は、師匠に尋ねる。


「留学しちゃうって、本当ですか?」

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