第101話 第48.5局 弟子編⑩

 自分勝手。・・・・・・まるで、私のことみたいだ。


 自分勝手に将棋をした。話をしながら、本を読みながら。父さんにいくら苦い顔をされても、私はそれらを止めなかった。


 自分勝手に奨励会を止めた。「楽しくなかったから」という理由だけで。周囲の説得にも、私は決して応じなかった。


 自分勝手に大学に入った。私を破門した父さんに反発して。実家から離れた大学を受験し、合格。たった一人で家を出た。


 本当に、私は、自分勝手だ。


 それでも、今の私は、自分勝手に生きてきた私は、幸せなんだと思う。


 だって、彼がいてくれたのだから。苦しんだこともあったけれど、彼が助けてくれたのだから。





 だから、今度は私が・・・・・・。





「ねえ。」


 私は声をかける。目の前で、自分のことを責める彼に。


「・・・何ですか?」


 その声は、とてもとてもか細くて、聞いているだけで胸が締め付けられた。


「私、何ができる?」


「・・・え?」


「あなたのために・・・何ができる?」


 私の言葉に、彼は何かを迷っていた。してほしいことはあるのに、なかなかそれを言い出せないといった様子。


「自分勝手でも・・・いいよ。」


 はっとして私を見る彼。


 生まれる沈黙。


 休憩スペースを吹き抜ける風の音、自動販売機の駆動音。それらが、いつもよりも大きく感じられた。


 長い沈黙を破ったのは、彼の声。


「・・・・・・将棋、したいです。」

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