第100話 第48.5局 弟子編⑨

「どうして・・・いるんですか。」


「あなたが来るかもしれないからね。」


 師匠は、ニコリと笑ってそう言った。


「ずっと、・・・いたんですか?」


「うん。」


「あの日から、ずっと・・・。」


「うん。」 


 その言葉に、僕は、よろよろと倒れ込むように、近くの椅子に座った。


「何ですかそれ~~~。」


 僕の口から、大きな気の抜けた声が飛び出した。


「えっと・・・。」


 師匠が、困惑の表情で僕を見る。


 そんな師匠に構わず、僕の口からは、言葉が滝のようにあふれてくる。


「ああ、もう。何なんですか、これ。師匠に相談もなくここに来ないって決めて。自分で自分のこと苦しめて。妹さんにも迷惑かけて。結局、ここに来て。師匠が待っていてくれたことが嬉しいなんて。ああ、本当に、何なんですかね。自分勝手すぎますよ、僕。」


 自分で自分の言っていることがよく分からない。脳の処理が、自分の言葉に追いついていないのだ。もしかしたら、勉強疲れのせいなのかもしれない。ただ、僕は自分勝手な人間だということだけは、はっきりと理解していた。


 目の前の師匠は、じっと僕を見て、何かを考えこんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る