第86話 第44局
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
「君、確か、昨日が誕生日だったよね。おめでとう。」
パチパチと手をたたく師匠。
「あ、覚えていてくれたんですね。ありがとうございます。」
僕は、ペコリと頭を下げた。
僕たちが誕生日の話をしたのは、ずいぶん前のことだ。正確には覚えていないが、少なくとも一か月以上は前だったと思う。それを師匠はずっと覚えていてくれたというわけだ。ちょっと・・・いや、かなり嬉しい。
「それで、これ、誕生日プレゼント。」
そう言って、師匠は小さな包みを僕に手渡した。
「えっと・・・僕をからかう物とかじゃないですよね。」
「・・・中、見てみて。」
師匠は、いつものような穏やかな表情を僕に向ける。
これは・・・・・・。まあ、中身が気にならないといえば嘘になる。
プレゼントを慎重に受け取り、ゆっくりと包みの中を見る。
「・・・お守り・・・ですか?」
「そうだよ。学業成就のお守り。」
学業成就。受験生の僕にはぴったりのお守りだった。ただ・・・。
「ありがとうございます。・・・でも、僕をからかうつもりだったんじゃ?」
先ほどの師匠の反応。あれは、『君をからかうためのプレゼントだよ』と言っているかのようだった。なのに、中身は普通のお守り。どうにもつじつまが合わない。
首を傾げる僕を見て、師匠はクスクスと笑う。
「からかわれると思わせた時点で、からかいは成功してるんだよ。」
今日も僕は師匠の手のひらの上だった。
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