第85話 第43局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「そういえば、師匠って、塾でアルバイトをしてるんでしたよね。」


 以前、師匠と将棋をしながら、アルバイトについて話したことを思い出す。その時、師匠は、社会経験がてらに塾の個別指導のアルバイトをしていると言っていたのだ。


「そうだけど・・・どうしたの?」


 首を傾げる師匠。突拍子もないことを聞かれ、不思議に思っているのだろう。


「いや、実は、僕も大学生になったらアルバイトをしたいなーと思いまして。それで、師匠と一緒の所で」「ダメ。」


 ・・・まだ全部言い終わってなかったんですが。


「えっと・・・そんなにダメですか?」


「ダメだよ。」


 強く反対する師匠。これほどまで僕の意見に反対する師匠を、僕は今まで見たことが無かった。


 ・・・一緒に働きたくない・・・とかだろうか。


 がっくりと肩を落とす僕を見て、師匠は少しだけ顔を背けながら言葉を発した。


「一緒に働きたくないとかじゃないんだけどね・・・・・・私の集中力が・・・。」


 それっきり、師匠は黙り込んでしまった。


「集中力・・・ですか?」


 その言葉の意味を、師匠は最後まで答えてはくれなかった。


 ・・・アルバイトは、また次の機会に考えるとしよう。

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