第14話 第10局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「そういえば、今日、夢の中に師匠が出てきたんですよ。」


 駒をきれいに並べ直しながら、僕は、今日見た夢を師匠に語っていた。


 夢の中でも、僕と師匠は相変わらず将棋を指していた。もちろん、たわいもない話をしながら。


 僕の話を、師匠は、興味深そうにふむふむと頷きながら聞いていた。


「それでですね、どうしてか分からないんですけど、師匠が僕のことを『師匠』って呼んでたんですよ。」


 夢の中で、唯一、今との大きな違いをあげるとするならば、そのことだった。夢は願望のあらわれとも言うが、もしかしたら、僕は、師匠に『師匠』と呼んでもらいたいという願望を持っているのかもしれない。


 そんなことを思っていると、師匠が、何か考える仕草をしているのが目に入った。そして、その仕草を止めたかと思うと、師匠はにこりと微笑んだ。


「すごくいい夢ですね、師匠。」


 ・・・・・・


 ・・・・・・


「・・・ひゃめてください。」


 つい噛んでしまう僕。そんな僕を見て、師匠はクスクスと笑っていた。


 今日、僕は、帰り際まで師匠に『師匠』と呼ばれ続けた。


 ・・・ほんともう、ひゃめてください。

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