第4話 戦う科学者たち
「今日はトランプをやろっか!」
と、アキバが手に持ったトランプを上に突き上げながら。
それにしても珍しいな、いつもいつも発明品をいじっているあのアキバが、機械が一切入らないものを提案するなんて。
それともこのトランプに機械的ななにかが仕掛けられているのだろうか。
疑ったものの、アキバが言うにはただのトランプらしい。
……アキバが言うには、だからなあ。
「でも、なんでいきなりトランプ?」
「博士らしくないです。どうしちゃったんですか?」
他の二人も、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「たまには機械から遠ざかってもいいんじゃないかって思っただけっ!」
「ふうん」
アキバはそう言うものの、うーん、納得しにくいな。
まあ、気分の問題だった、というのは、あり得なくもないけど。
「トランプ、ねえ。使うのはいいけど、色々と使い方があるぞ?」
「シンプルにいこうよ。原点回帰、ババ抜きをしたいと思いますっ!」
『ババ抜き!?』
三人同時に叫んだ。別に、ババ抜き自体、珍しいことじゃないけどな。
すると、ハッピーが俺の首に腕を回して――うぐっ、絞まってる、けど!?
「し、死ぬわバカ!」
「いや、そんなつもりなかったんだが……」
内緒話をしたかったらしいが……しかしだ。
「気をつけろ、お前の感覚で首に腕を回したらな、俺たちにとっては一国を滅ぼされる感覚と同じなんだからな?」
「よし、本気で落としてやるよ、おらぁ!」
「ぐぎ、がががが!? ぎ、ギブ!? ギブだからやめ……ッ」
「ぴゅー」
「聞こえてんだろ!? 口笛を吹くなあ!!」
あ、やば……、意識が、段々、なくなっていって…………、
「よっ、せい!」
「――はっ、ここは!?」
「ほら、蘇生完了だ」
「お、おう、助かった、ハッピー……」
いつの間にか、俺はまた死にかけていたらしいな。
すぐ傍にハッピーがいて助かった。
「ありがとな、ハッピー」
「気にすんな、いつでも蘇生してやるからさ」
こいつ、良いやつだなあ……。
「記憶障害が起こってるじゃないですかっっ!!」
隣でモナンが叫んでいるけど、気にしないでおこう。
「先輩? 本当に覚えていませんか? 意識がなくなっていたの、ハッピーさんのせいなんですよ?」
「え? いやいや冗談よせよ、そんなわけないだろ?」
「洗脳完了ですか!?」
あれ? このへんの会話、聞いたことがあるような……?
なんだっけ? あ、これが記憶障害ってことか?
「まあ、気にすんなよ、モナンが変なのはいつもの事だろ?」
「それもそうか」
「少しは疑問を抱いてくださいぃぃぃぃぃぃっっ!!」
ひとしきり叫んで、モナンがガックリと肩を落とす。
あいつ、いつもこんな役回りだよな?
すると、さすがに待ち過ぎて痺れを切らしたアキバが、割り込んでくる。
「ほらっ、やるよババ抜き! あんまり深く考えちゃ、ダメっ!」
ぷんすか、と聞こえそうな可愛い怒り方だった。
まあ、断る理由もないので、ババ抜きを始めるか。
アキバがトランプをシャッフルし、俺たちに配っていく。
ルールは今更、説明するまでもない。普通のババ抜きだ。最後に、ババとなるジョーカーのカードを持っていた人が負け。ローカルルールもアキバ独自のルールもなし。
誰もが知る公平なルールの下でおこなわれる。
ルールに変化は与えないが、盤外戦術として、アキバが提案した。
「罰ゲームを決めよっか」
ニヤリと笑ったところを見ると、なるほど、これがメインか。
アキバが急にトランプをやりたいと言ってきた動機が見えてきた。
「たとえば?」
「ビリの人は、トップの人の言う事をなんでも聞く、とかね」
「おっ、いいなそれ。絶対に負けられないって感じでさ」
聞いたハッピーのテンションが一気に上がった。
こいつはこういう勝負事が好きだからなあ。
「じゃあ、一応、他の候補も考えておこっか」
「はいはい!」
モナンが元気よく手を挙げた。
「じゃあ、モナン!」
「ビリの人にですね、羞恥プレイです!!」
「嫌だよ!!」
「え、なんでですか?」
「逆に、なんでおーけーを貰えると思ったんだ!? 絶対にダメだろ!!」
隣では、
「それもいいかも!」「その手もあったか」なんて声も聞こえるが、
分かってるよな!? 負けたらお前らもそれをやるんだぞ!?
「でしたら、逆にトップが羞恥プレイというのは?」
「なんで逆にした!?」
「斬新かなー、と思いました!」
「斬新過ぎるわ!
それはもう、ババの取り合いだよ、やってて全然楽しくなくないか!?」
「では、羞恥プレイを――」
「羞恥プレイを押すのはなんでだ!? お前、そんなキャラじゃねえじゃん!」
散々提案して満足したのか、モナンが素直に引き下がった。
「よし、じゃあ次はアタシの――」
「お前のターンはねえよ!!」
ハッピーの言葉を無理やり止める。
お前までモナンみたいにボケられたら俺の体力がもたねえから。
「なんだよ、言わせろよ。モナンとは違うやつだからさー」
「……じゃあ、まあ、一個だけなら。言ってみろ」
「ビリのやつは、アタシの新技の実験台になってもらう」
「よし、ババ抜きやろうぜ」
「ツッコミ放棄かてめえ!?」
ハッピーがぶーぶーと文句を言っているが、構う必要はないだろう。
結局、ビリの人がトップの人の言う事を聞く、という罰ゲームになった。
まあ、それが妥当か。
他に、特にこれと言って提案があるわけでもなく、反対する者はいなかった。
一つ、気がかりがあるとすれば……この罰ゲームが、アキバ発案ということだ。
考え過ぎ、か?
今は手元に集中しよう――俺に配られた手札が……、
「いや、手札多いな!?」
まさか一枚も揃わないとは思わなかった。
不吉……、嫌な予感がするなあ。
毎度毎度、俺ってこんな役回りばっかりだよな。
ちらりとモナンを見ると――、
アキバからカードを引くところだった。
引いたカードを見て、モナンが顔面を蒼白にさせる。
「……分かりやすいなあ」
「はい? なんですか?
あたしは、ば、ばば、ババなんて、引いてな、い、ですよ……?」
「そのセリフ、持ってるって言ってるようなもんだけど」
ババ抜きに向いてない……どころか、勝負事に向いてないんじゃないか?
仕方ないな。勝負をなめるな、と言われそうだが、それでもいいや。
俺はモナンが持つババをあえて引く。狙って引けたのは、俺の指がカードを選んでいる時、ババに触れた瞬間、モナンの顔がにやけたからだった。
分かりやすくて助かる。
揃ったカードを山に捨て、ハッピーの方を向く。
ハッピーは迷いなく、俺の手札からカードを引いた。
――そう、ババをなあッ!!
「う……っ! は、はは」
ハッピーの顔が引きつっていた。
「いや、お前もかよ!」
「な、なにがだよ……?」
「お前もモナンも、ポーカーフェイスが下手過ぎなんだよ! あと、ハッピーの場合は声を出すなっ!」
「誤魔化してただけだっつの」
「誤魔化せてねえよ!」
とまあ、そんな感じでしばらく続き――、
「はい、一抜けー」
と、アキバの手札がゼロになった。
あれ? いつの間に……。
いたかどうか分からなくなるくらい、静かだった。
「これは……」
「まずい……」
「ですね……」
残った俺たち三人、意思疎通完了。
負けられない戦いだ。
「さてっ、誰がビ・リ・か・な?」
――絶対に負けられない戦いがある!!
アキバがどんな罰を最下位にさせるのか、想像もしたくない!
こいつの場合、○○を〇〇して○○する可能性が大なのだから!
『負けられないッッ!!』
そして、いつの間にかモナンが抜け、
俺とハッピーの、一騎打ちになっていた。
「ぐ――こい!」
ハッピーが俺の手札からカードを引き、ババだった。
「あっ、もうっ、なんでまたババなんだよもう!!」
あぶ、危ねえ!? なにこれ、超怖ぇよお!
俺の手札は一枚、これで、ババじゃない方を引けば、俺の勝ちだ。
手を伸ばし、カードを取ろうとする。
ハッピーが持つ二枚の内、右のカードに指が触れた時だ。
ハッピーの頬が、少しだけ緩んだ。
意識して表情に出さないようにしているようだが、まだまだ甘い。
がまんしてもまだまだ分かりやすい部類だからな。
これがババで決定だな――よし、俺の勝ちだ!
取るべきカードを変え、勝負を終わらせようとした時だ。
見る必要のないハッピーの表情を見てしまったのが、間違いだった。
……少しだけ、だ。
本人は否定するだろうし、俺の勘違いかもしれないが、それでも。
僅かでも、泣きそうになっていたハッピーの表情を見てしまえば――もう。
このカードは、取れなかった。
「…………」
俺はカードを引いた、ババだった。
まあ、人の言いなりになっているハッピーを見たくないからな。
次で決まる……さて、お膳立てはしたからな?
ババじゃない方を取れば、お前の勝ちだ。
視線で訴える。ババは、こっちだからな?
伝わっているかどうかは、怪しいものだったが――。
やがてハッピーが、俺のカードを迷いながらも、取った。
そのカードは、ババではなく、
「や、やったぁぁぁああっ!!」
「良かったですね、ハッピーさん」
「ありがとなあ、ありがとなあ!!」
抱き合うハッピーとモナンを見て、素直に思ったものだ。
よくババ抜きでそこまで盛り上がれるよな?
「最後、わざとババを引いたでしょ。あと、アイコンタクトでババじゃない方のカードの位置を教えていたし。そんなに罰ゲームが受けたかったのかなあ?」
後ろからそんな声だ。
「アキバか。まあ、違う、とは言えないけど」」
「ふうん。ハッピーのため?」
「そんなつもりはねえな」
あれ? ないのかな……そうだよ、ハッピーのためではない。
「そうだ、自分のためなんだよ、うん」
「ドМなの?」
「違うわ!」
「で、忘れたわけじゃないでしょ?」
「ひっ……!? う、まあ、約束だしな……。なんなりと、お申しつけください」
「じゃあねえ、ふふ、なにをしてもらおうかしら、ねえ……?」
「い、痛いのはもう勘弁で……。ハッピーで足りてるからさ」
「誰もそんなことしないわよ!!」
「じゃ、じゃあまさかお前……精神的に傷をつける気なのか!?」
悪趣味にも程がある!!
「お望み通りにやってあげてもいいんだけど?」
どんな痛い罰ゲームが待っているのか。そう身構えていたのだが、アキバの要求は予想もしていなかったものだった。
「――今度の日曜日、私のショッピングに付き合って」
「は?」
え、ええ? ……そんな事で、いいのか? だって、罰ゲーム……。
罰ゲームか、それ?
「博士、大胆ですねえ……」
「これを利用するために、か……なるほどなあ」
と言っているやつが二名ほどいたが、どこがなるほど?
訳が分からないんだが。
「そういうことだから――じゃね!」
「って、ええ!? じゃあねってお前っ、お前の部屋ここだろ!?」
どこにいくつもり――マジでどこにいくつもりなんだあいつは!?
そんな感じで訳が分からないまま、なんと次回に続くのだった。
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