第97話 残り3話

「最後に一つ、聞きたい事がある」


そうシュテイルは俺に質問してくる。

彼は、その質問で何か攻撃でも仕掛けるのかと思ったが、彼の涼しげな表情からそれは無いと悟った。


「……なんですか?」


だから俺は、シュテイルに聞く。

一体、何を聞きたいのかを。


「〈破滅の胎動〉……あれを喰らった筈だ。なのに、何故生きている?」


あぁ、そうか。そんな質問か。

単純な話だ。それは、彼女が俺を救ってくれたんだ。

クインシー、彼女が俺の為に残してくれたのはチェーンソーだけじゃない。

俺は握り締めていた拳、その手を開いた。俺の手の中には彼女に捧げた指輪が握られている。


「〈楽園の箱庭ミニチュア・ガーデン〉……彼女の魂と共に残してくれたアイテムだ。これで俺は〈破滅の胎動〉から逃れる事が出来た」


このアイテムこそが、彼女との出会い、その始まり。

生涯大事にすると決めたクインシーの大切な代物。

それが、最後の最後で、俺の力になってくれた。


「……そうか、あぁ、理解出来ぬ事が解けていく、清々しい」


シュテイルはそんな言葉を言った後。


「私には何もない。からっぽだ、だからだろうか、キミを見ると少し羨ましく感じるよ」


その言葉を最後に、シュテイルは消滅した。

手に握り締める壊れたスマホを落として、その場から消え去ったのだ。


「………これで」


これで、終わった。もう、終わったんだ。

そう安堵した束の間……俺の背後に衝撃が加わった。


「……?」


後ろを振り返る。其処に立つのは、ゴッド・エンジェルクイーンだ。

何故?草陰さんが、確か、殺した筈なのに……。

そして俺は後ろを振り向く。其処に立っているのは草陰さんだった。


「……済まない、遊飛くん」


そう、草陰さんが俺に謝ると。


「君を神にするわけにはいかない」


その言葉を最後に、ゴッド・エンジェルクイーンが俺に突き刺した刃物を引き抜いた。

その場に転がる俺は、意識が歪んでいた。

なんで、こんな、こんな事を………俺が、神にならないと……。


「……酷い仕打ちだ、けれど、安心して欲しい、キミが死んだ後で、生き返らすから」


近くに居た、玄武さんが近づいてくる。

そして……俺の意識が完全に途絶えた時。

俺は死んだ。


………そして、再び、俺は玄武さんの時間逆行能力で蘇生された。


「ッは、ッ……はっ……な、なん、で」


俺は顔を草陰さんに向けた。

草陰さんは傍に居て俺の顔を見ていた。


「こうする他無かった。神などと言う、大それたモノは、キミには荷が重すぎるからのぅ」


そう言って申し訳なさそうに顔を項垂れる。


「酷い事をした、罵ってくれても構わん、それでも儂がすべき事だと思ったから、それをした」


「だか、だからって……なんで、あの男を……」


普通の世界を望むゴッド・エンジェルクイーン。

神になれば、ファンタジー能力を失って人が死んでしまうのに。

なんで、彼を神にしたんだ……。

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