第95話 残り5話
「構築」
シュテイルは自らの五指を、自らの頭部に当てる。
彼は、自分自身の設定の書き換えを行っている。
それは多分、あらゆる攻撃の無効化とか、能力の無効化とか、大方、自分を有利に働かせる為に設定しているのだろう。
だが、関係ない。俺はチェーンソーを持って、シュテイルの目前へと迫る。
「―――〈破滅の胎動〉」
だが……シュテイルは俺が迫る瞬間に別の能力を発動していた。
眼前に存在する全てを消滅させる、破滅の光。それが俺に向けて放たれた。
「ッあぁああ!!」
俺はチェーンソーを片手で振り回す。
ただ一度、全てを切裂く事が出来るチェーンソーは、〈破滅の胎動〉すら両断出来た。
だが、それが駄目だった。〈破滅の胎動〉は触れたモノを消滅させる。
二つの能力が相殺し合い、その結果、〈破滅の胎動〉を破壊すると同時にチェーンソーも破壊されてしまう。
チェーンが回る。板が粉々となる。エンジンからプスプスと煙が上がって、機械の部品が光の聖壁に散らばり、消滅した。
彼女の愛用していたチェーンソーが、簡単に無くなってしまった。
俺はそれでも、残る腕を強く握り締めて、拳を作りながら走り出す。
けど、俺は、寸での所で足が縺れて倒れてしまった。こんな所で失敗をしてしまった。
再び〈破滅の胎動〉が来る。そう思った、だが、シュテイルは待っていた。
俺が立ち上がるのを、待っていた。
「なんで、攻撃、しないんですか?」
膝を突きながら俺は聞く。ただ、立ち上がる為の時間稼ぎでしかなかった。
しかし、シュテイルは律儀に答えてくれた。
「一つ聞きたい事があった」
「俺にですか?一体、何を?」
ふらふらになりながらも、俺は踏ん張りながら立ち上がる。
「俺が神になれば、世界を再構築する。だが、その世界には俺しかいない。俺は無能だ。自分では何も考える事は出来ない。だから、世界を滅ぼしても良いのだろうか?と。だから聞く。滅ぼした世界で、私は、一体誰の言葉に耳を傾ければ良い?」
それは、恐らく、純粋な疑問なのだろう。
既に、シュテイルの眷属は死んだ。残るのは、彼だけだ。
世界を再構築する、その為に世界の全てを消す。文明も、技術も、人の魂、ガチャですらも。それら全てを捨てて新世界を築く。
それは既に決定していた事だ、答え一つで覆る事は無いだろう。
だが……誰も居なくなった世界で、シュテイルはどう生きていくのか。
神として、どんな事をするのか。
「逆に聞きます。何故、世界を再構築する必要があるんですか?」
「神は万能だ。全能で、十全だ。だが、それが人々に振るわれる事は無い。それは先代が築いたルールが存在するからだ。それは絶対に変える事は出来ない。世界を抹消する事で、初めてルールも初期化される」
あぁ、そういう事か。
神のルール。俺が知る中じゃ、神は人類に干渉してはならない、なんて言うものがある。
それがシュテイルたちには色々と不都合だったんだろう。
だから、世界を再構築する事にした、と。
「だから、全てを消す前に聞く。俺は一体。何も無くなった世界でどうすれば良い?」
何故、これから殺そうとする敵に聞くんだろうか。
もしかして……同じ神の末裔だから、情、なんてものが沸いたんだろうか。
なら……答えようか、友とか仲間、とか。絆と言うモノが芽生えたからじゃない。
それは敵として、彼にとって不可能な言葉を浴びせる為に。
「……関係無いよ、シュテイル。誰かの言葉なんて関係ない。これから先、キミが神になったのなら。キミの好きな様にすれば良い、なにをしてもいいんだ、だってキミは自由なんだから」
……これ程、皮肉を込めた言葉は無いだろう。
自分じゃ行動する事の出来ないシュテイルに自由にすれば良いなんて。
それが出来ないからわざわざ敵に聞いているのに。
シュテイル自身、困惑した表情を浮かべた、そしてその表情を最後に手を此方に向ける。
……さあ、仕上げだ。後は頼んだよ。
破滅の光が来る。俺は走って……その光に呑まれた。
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