第92話 残り8話
「シュテイル、すまない……力を使ってくれ」
そう黒服赤髪の男は言った。
その言葉に応じる様に、シュテイルは頷くと手を前に向け出す。
黒服赤髪が防御魔法を解除すると、死者の群れが一斉にして流れ込んだ。
シュテイルはその群れに対して、ただ手を伸ばしているだけ。
けれど、其処から放たれる一撃は、全てを崩壊させる消滅の顕現だった。
「〈
シュテイルを飲み込もうとする死者の群。それらが全て消えていく。
なんだ、あの能力は、理解を求める為に小春さんの方に顔を向ける。
「えと……職業〈破壊者〉の能力、眼前に存在する全てを抹消する能力、です」
そう、小春さんは言った。
そうか、もう驚く事は無い。あれがシュテイルの能力なのか。
「凄い能力、ですけど……えと、シュテイル、さんの周囲は、安全圏、です。なので、懐に潜り込めれば、破滅の胎動は、受けれません」
そう説明してくれる。
成程、ならこのまま進む他ない。どちらにせよ、接近戦じゃないとシュテイルを倒す事は難しいだろう。
「けど、大丈夫です。まだ俺には、契約している者が居る」
パチリ、と指を鳴らす。
そして、出現するのはかつての神。
「ようやく、俺の出番ってワケかよォー」
出現したのは、覆面男だ。
俺が死んだ世界で契約したのはこの二人。
カルサ・エルゴ神は惨状を見たいからと契約はしなかった。
だから、この覆面男こそが、俺の最後の切り札となる。
「契約の内容、覚えてるよなぁー?」
「はい、仲間に、貴方の同胞を救う様に言います」
それが俺と覆面男の間で交わした契約だ。
俺は神になる、神になれば、ガチャを引く事は出来ない。
何故ならばガチャの権利は人間にある。神はそのガチャを引くことが出来ない。
だから、俺は神としてこの世界を統治し、玄武さんや草陰さんにお願いしてガチャを引いて貰い、覆面男の仲間を救う、と言う契約をしたのだ。
「あ、二回目、きそう、ッ〈破滅の胎動〉ッ」
シュテイルがこちらに顔を向けた。その黄金の眼から迸る光。
削除する意志が向けられるが、しかし問題ない。
「俺の後ろに付いて来いや、そんじゃ……やるぜ」
そうして、覆面男が両手の爪で顔面を引き裂いた。
その瞬間に、覆面男の能力が発動される。
「〈
破滅の胎動が来る。その瞬間、覆面男が山の上から降りて駆ける。
それに合わせる様に、俺やクインシーも、後ろに付いて行く。
目の前に群がる死者が消滅する。その消滅する順番からして、覆面男もすぐさま消滅されるだろうが。
「オラァ!!」
その声を共に腕を振る。それだけで、破滅の胎動が消滅した。
〈
その能力こそが、カルサ・エルゴ神を打ち破った不条理の力。
なんでもありの神ですら打ち倒す事の出来た能力。
それは他人の
相手がどれ程強くても、チート能力を持っていても。
知った事かと、腕を振り回すだけでその能力を強引に破る。
覆面男に名前は無い。
それは、彼の居た異世界の法則が、〈失う代わりに力を得る〉世界だった。
自分の所得しているものを放棄する事で、放棄したものの相応の異能を得る事が出来るのだ。
覆面男が捨てたのは自らの名前。
その世界に置いて自らを証明する大切なものを、彼はカルサ・エルゴ神を倒す為に捨てた。
結果、彼と言う存在は他人の記憶から忘れ去られた。
その代わり、どうしようもない無敵な神を倒す事が出来たのだ。
そして、彼は二度目の能力を発動した。
一度目は人々の意識から彼が消えた。
そしてこの二回目は、彼と言う存在そのものが消える。
故に、時間制限がある。彼の能力は蝋燭の様なもの。
魂を消耗して、命を懸けて、それでも、彼は自らの世界を救う為に走る。
「ッあぁ、クソ。神の末裔、殴りたかったが……時間が無かったみてーだわ」
そして、安全圏へ突入すると共に、覆面男の姿は揺らいでいた。
「約束守れよ、チビ」
そんな、近所の兄さんの様な、少しだけ親しみを持てる様な言葉を残して。
覆面男は、完全にその場から消滅した。
シュテイルの安全圏まで案内してくれたと言う重大な功績を残して。
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