第7話 「疎遠だった幼馴染」ってロマンがあるよね。

「青春が、ない…… アオハルなんて、あるはずない……」


「青春はリア充の特権だろう。雷堂、お前は諦めるんだ……」


 これまた次の日。早めに登校日し、雷堂と楽しく語らっている。どうも、今朝のあいつは一味違うらしい。いまさら自分がアオハルらしいことをできてないと嘆いているのだ。


「俺のクラスにはよぉ、転校してきた謎の美少女だとか、俺にベタ惚れの女の子とか、美少女宇宙人だとかはいねぇのか」


「雷堂、フィクションはフィクション。リアルはリアルだ。よく本の最後らへんに書いてあるだろう? 『これはただの虚構フィクションです。こんな都合のいい人間は実在しないんだよボケッ!!』てやつがよぉ」


「違う、絶対いるはずなんだ。俺のクラスに、今にも絶世の美少女が現れて、俺に惚れてくれる世界線がッ!!」


「ああそうですか。日本中駆けまわれば、世界線を移さずともひとりくらいは見つけられるんじゃないのか、そんな都合のいい人が? とはいえ出会えたら奇跡だな。たいがい、そんな絶世の美少女はイケメンとくっつくだろう」


「それは一樹の偏見だろう。イケメンじゃなくても超絶可愛い子と付き合える」


 そりゃそうだよ。でもさ、現実甘くないだろ? 都合よく何もかも起こるはずがないんだ。


「その前に転校生はこないんだよなぁ。中学ならまだしも、ここ高校。奇跡は起こらない。諦めて現実を見ろ。現実から逃げてると俺みたいにシスコンになるぞ」


「以後気をつけます。とはいえ、鉄オタの美少女はいないものかなあ。一緒に撮り鉄でもしたいのだがな」


「そういやどうして美少女を求める? お前は面食いか。美少女というフィルターを外せばもっと幅が広がるぞ」


「面食いで何が悪い。俺は至高の領域を目指しているだけだ。この崇高な行為を否定する気か、カズッッ!!」


 雷堂、もっと熱くなられたら困るからすぐに冷えてくれ。気持ちが昂りすぎて、あんた、すでに大声なんだ。注目も集まっているんだ。やめてくれ、そんなことしてると俺まで女子が寄りつかなくなるから。


「あのさぁ、まじでオタクくん五月蝿いうるさいんだけど。縄で縛り上げて晒し者にでもされたいわけ?」


「そ、園崎。雷堂にそれは禁句じゃなかったのか」


「おぉ、なんだか、なぜだか罵られると昂って」


「無理無理無理無理無理っ!! キッッモ。詫びなさいよ、ゴラァ!!」


 高速ラッシュで容赦なく雷堂の背中を痛めつける園崎。いつもの俺に対する当たりなみに強い。


「ゴホッ……う゛、死ぬ……」


「今後オタクくんが何か腹立つことし出したら、浦尾を締め上げてからあんたも締めるから、わかったかァ?」


 ってかなんで俺が先に締められなきゃあかんの。


「す、すみませんでした」


 完全に萎縮してしまったじゃないか。それが常人の反応であるがな。あの口調は、どこか裏社会の人間の香りがプンプンしてくる。恐るべし、園崎。俺は耐久性能が上がりすぎて、もはや暴力を受けても、精神的なダメージしか感じとれない。それも相当軽減されたものに。ゆえに、この私なら耐えられるということだ。耐えられていないが。


「雷堂、気にすることはないさ。体の傷はいつか癒える。癒えないのは、深く入った心の傷だけさ」


「め、名言っぽくてかっこいいが。いまは痛すぎてそれどころじゃねえ」


「悪かった、まずは痛みが引いてからだな」


 席は、園崎の友人が占拠していて、まともに座れそうもなかった。下手に切り出せば、無駄に怒られそうである。どうせあと十数分もすればチャイムが鳴るのだ。それまでトイレで時間でも潰せばいい。


 廊下に出て、トイレまで向かう。校舎でいえば端のほうにあるから、少し歩かなくてはならない。自分のクラス、つまり1年A組はトイレとは真逆の端に位置する。遠く、遠く離れているわけだ。


 外でクラスの輪をこえて喋る輩の間を抜け、先を目指す。


 一歩一歩着実に進み、ようやくトイレへとたどりついた瞬間。手前の女子トイレから、見覚えのある顔が現れた。


「星乃……!!」


 サラサラの黒髪を肩より上で切りそろえていて、顔には透明感があり。右側には苺柄のピンをつけいる、園崎よりも小さい、子犬みたいな女の子。


「うそ、かずっち? え〜、久しぶりぃ!! 元気ぃ?」


 とろけるような甘い笑顔で、一瞬にしてすべての男を虜にしてしまう。そんなレベルの、女の子。


 星乃笑里ほしのえみり。俺の、幼馴染だ。


「超元気。そっちは」


「笑里も元気だよ!! この笑里を誰だと思っているの?」


 ときどき子供っぽいけど、基本は天使だ。一緒にいるだけで、空間が歪んでふにゃふにゃになってしまうくらいの可愛さがある。守ってやりたいと、誰しもが思うだろう、そんなレベルだ。


「いや、元気そうだな。よかったよかった。そんじゃ、これから授業もあるし……」


「ねえ、かずっち。放課後、空いてるかな」


「まあ、空いてる」


「『もちろん空いてる!!』じゃなくなっちゃったんだ。ちょっと寂しいかも」


 そんないいかたをしていた記憶は…… ある。うちの家政婦が頭によぎってしまったせいで、返事にためらいの意があるように伝わっちまったじゃねえか。何やってんだ、俺。


「どこで待っていればいい」


「屋上入り口の、ドア前」


「おっけー、そのときにはいく」


「ありがとう。じゃあ、もうホームルームだから、先戻ってるね」


 懐かしい、笑里との会話だなんて。いつの間にか立ち位置が変わって、クラスも違くて。関わる機会も自然と減っていたんだ。


 こうして、偶然にも機会ができたことには、感謝するしかなかった。今日の授業は一段と身が入りそうだ。




ーーーーーーーーー

あとがき


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